この物語を見たことがある者なら誰もが知っている。
立ち塞がる普通を。
共に歩もうとする特例を。
無責任な過負荷を。
そして、彼らの物語はここから始まる。
悪平等でも言葉使いでもない、完全で完璧で完了している1人の異常によって。
「世界は平凡か?未来は退屈か?現実は適当か?」
響く声。真面目であろうが不真面目であろうが、ここにいる者は誰しもが彼女の声に耳を傾ける。
それほどまでに凛然。圧倒的な存在感。
生まれながらのカリスマか。否、彼女のそれは"そんなもの"では済まされない。
「安心しろ。それでも、生きることは劇的だ!」
だからこその異常。それでこその異常。
彼女――― 一年十三組黒神めだかは、全校生徒の前で当然の如く言葉を発する。
「24時間365日、私は誰からの相談でも受けつける!」
それが、圧倒的支持率を手にした第98代生徒会長の最初の挨拶であった。
「ねえ門司、いいの?」
「なんだよ、俺達ならまだしもジュウサンのお前がビビるこたぁねぇだろ」
「え、門司ビビッてるの?」
「わけねえだろ!」
しかし―――先ほどの主人公にでもヒロインにでも成り得そうな少女は、少なくとも、"この物語"での主役ではない。
あの少女のことだ。"なんらかの形"で"この物語"に登場してくることはあるだろう。
だがそれはまだ先のことで、今ではない。
「でも集会だよ?全校生徒が集まる集会。普通、生徒は参加しなきゃでしょ?」
場所は剣道場。これもまた、いつものこと。
「サボってみたいっつったのは名字だろ?」
「そうだけど何もこのタイミングで」
高校三年生になった今も、門司たちは相変わらずのようだった。
そして、普通組である彼らの輪の中に、1人の十三組がいるのもまた日常。
「それに俺達はあの1年に票入れてねぇし」
「あの1年?」
宇佐の言葉に、門司と会話をしていた1人の少女が首を傾げた。
箱庭学園三年十三組に所属する、名字なまえ。
そして、十三組ということは、この学園では特別な意味を示している。
「新しい生徒会長だとよ。1年のくせに。ま、そこはジュウサンって感じだがな」
もう"そういったこと"をなまえの前で隠す必要もないのだろう。
中津が言ったジュウサンをとやかく言う言葉をもはや誰も止めることはなかった。
「支持率98%。今をときめくイカれた新会長って奴さ」
「ふぅん…」
「……………?」
門司がからかい気味に口にした言葉。それになまえがなんらかの反応を示すかと思われたが、予想とは違いなまえはただ一言そう零すだけ。
普通に登校しサボることを躊躇するくせに、"生徒会長"というものに興味がないのだろうか。
相変わらず考えていることがわからないな、と門司は手にしている飲み物を一気に飲み干した。
「…私、ちょっと行ってくるね」
「は?行ってくるってどこに」
なまえは既に自分の分の飲み物を飲み終わっていたようで、近くのゴミ箱に空き缶を捨てながら立ち上がる。
不思議そうになまえを見上げる門司。
なまえはそちらを見ず、外に繋がる立派な扉を見つめたまま静かに口を開いた。
「日之影くんのところ」
「…日之影?」