箱庭学園の学園祭。その目玉の一つである競泳部による出し物が始まろうとしていた。
賑わう校内。盛り上がるプールサイド。
しかしここは―――学園祭時には関係者以外立ち入り禁止となっている区域に存在する"理事長室"は、酷く静かである。

「………………………」

「………………………」

室内に人がいないわけではない。
そこには2人―――1人は勿論理事長室の主である不知火理事長だ―――"関係者"がそれぞれ向かい合ったソファに座っていた。
理事長は慎ましく座りながらも茶を啜り。
もう1人は苛立ったようにふんぞり返っていた。

「完敗だ完敗。あの十三組ども、なんだってんだ」

ケッ、と言葉を言い捨てたのは、一年十三組である雲仙冥利。
彼は風紀委員長でもあるが、理事長室にいるとはいえ今は学園祭の真っ最中。制服ではなく彼も私服に身を包んでいる。
雲仙冥利―――彼は、ここ理事長室に理事長直々の呼び出しを食らっていた。
まあ、呼び出された理由はわかる。それが起こった過去もそう昔ではない。
恐らくは生徒会をどうにかしようと目論んだ件。そちらのほうだろう、とため息をつく気にもならなかった。

異常アブノーマルである雲仙くんでも理解し難いものでしたか?」

「"理解し難い"どころじゃねえ」

目の前の老人は静かに笑うだけで、さっさと本題に入ろうとは思っていないらしい。
それに気付いた雲仙がどうしたものかと一瞬目線を逸らすが、こうしていても仕方が無いと諦めたように口を開いた。

「で?風紀委員長を辞退か?それとも退学か?」

・・・・・・・
あれだけのことをしたのだ。ただで済むはずもないだろう。
というよりそんなリスクを負ってでも、雲仙は生徒会長である日之影空洞を"どう"にかしたかったのだ("生徒会"ではなく、だ)。
しかしまあ、結果は言わずもがな。そして、その"目的"すら雲仙は既に"覚えていない"。

「いえ。別にあの件に関しては学校側からは特に何もありませんよ」

「は?」

「時計塔の件も然りです」

さもそれが当然かの如く、サラリと言ってのける。
そんな異常アブノーマルな反応に、雲仙は一瞬固まった。

「な、なにもない…?」

「ええ。何も」

「一体どういうことだ」

「ですから、"特に何も無い"と」

「………………………」

理事長の笑みに、そういうことかと雲仙は一瞬で冷静さを取り戻す。
"学校側からは特に何も無い"。
それは言葉通りのことらしい。
勿論雲仙や他の生徒に対する"処罰"はない。そして―――"説明"もない。

「あれは"計画"の一部ということになっています」

「……………………」

"計画"。
その単語を、この短い期間で雲仙は既に聞いていた。
その件を確かめたいということもあって理事長からの呼び出しに応じたわけだが―――まさか向こうから計画についての話を振ってくれるとは思っていなかった。
雲仙は笑みを浮かべそうになるのを抑える。
目の前に置かれたのは、7つのサイコロが入ったグラス。

「そのサイコロを振ってください」

わざわざグラスに入っているということは、7つ同時に振れということだろう、と雲仙はグラスを見下した。
機械を使うゲームだけではない。トランプや他のゲームだって、雲仙はいくらでも触れてきた。
グラスを手に取る。
サイコロを使うゲームも幾度となくやってきた。そして、

「おお…これは……」

それらは全て、同じ結果を導き出す。


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