「(………………不良だ)」

名字なまえは絡まれていた。
授業も終わり、学校の帰り道によろうとした本屋の前で、出てきた不良とぶつかってしまったのだ。
お互いに悪い部分はあったものの、相手は不良。
腕が折れただのぶつかった場所が痛いだのと喚き散らし、あろうことかなまえに慰謝料の請求をしてくる始末。
一体いつの時代の不良だ、となまえは呆れたが、そんなことを言って相手の怒りをかっても困るしどうしようかと周りを見渡す。
歩く人々はやはり見て見ぬふりをし、こんないたいけな中学3年生を無視してスタスタと歩いて行ってしまう。
仕方ないので所持金を全て出そうかと鞄に手をかけた瞬間だった。

「邪魔なんだけど。どけよ」

静かなその低い声に、不良達は「あ?」、なまえは「え?」と同時に短い声を出してそちらを向いた。
確かになまえと不良達が対峙している場所は本屋の入口とあって邪魔である。
だが、こんな怖そうな不良に話しかけることが出来た人物にその場に居た全員が同時に興味を持ったのだ。「なんだ?テメェ……」

そこに立っていた少年は、裸の上半身に学ランを着て腰まで下げたズボンをはいたロンゲの金髪という風貌の、いかにも不良という言葉がピッタリな少年だった。
目は怖いくらいに荒んでいて、手には武器のようなものを持っている。
不良は身体ごと少年に向きなおると、少年を睨み付けた。

「今たてこんでんだよ。見ればわかんだろ?」

「アンタ達が邪魔なのは見ればわかる」

「んだと…!?」

その瞬間、何の前触れもなく、少年が不良の1人を手にしていた武器で思いっきり叩きつけた。
一瞬の出来事に、辺りがざわめく。
だがなまえは静かにその光景を眺めていた。

「……………」

無言のまま、その5秒後にはなまえを囲っていた不良達は地面に倒れ、頭からは血を流している。

「…………………」

なまえは自分の足元を見て、アスファルトを伝ってくる血を避けると、本屋に入らずこちらをじっと見つめていた少年を見上げる。

「あー、ありがとうございました」

事務的な会話でもするかのように、感情のこもっていない口ぶりでなまえは少年にお礼を言う。
だが少年はそんななまえの態度に何も思わなかったのか、荒んだ目でなまえを見つめるだけ。
そしてなまえは何を考えたのか、少年に向かって言葉を紡いだ。

「誰か、大切な人とかいる?」

「え?」

突然の言葉に、少年は唖然となまえを見る。

「もしいるなら、それはやめたほうが良いよ」

なまえが何のことを言っているのか、少年にはまったくわからなかった。
なまえは少年の足元に落ちていた少年のものであろう生徒証を見て年下だと確認すると、そうタメ口で言い放つ。
その言葉に対して、少年は驚いたようになまえを見つめるだけ。
なまえは足元に落ちている生徒証を拾い、彼に差し出す。

「不愉快だからね」

その言葉に、少年は何のアクションも起こさなかった。
怒ることも殴ることもせず、ただ理解出来ないというようになまえを見つめるだけ。

「自己というものを放棄して、他人に完全に依存しているあなたは、きっとその人達からしてみれば不愉快だろうから」

少年には、こんな行動をおこす大した理由も信念も目的もなかった。
あるがままに生きてなすがままに暮らし言われるがままに壊してきている。
それを誰かに責任を取れなど言うつもりはなかった。
すべては少年が選んだ人生だからだ。
だけどそれを、こんな道端で出会った少女に指摘された少年は、唖然と差し出された生徒証を見ることしか出来なかった。

「助けてくれてありがとう。それじゃあ」

少年が生徒証を受け取ったのを見ると、なまえは本屋へは入らずそのまま自宅への道を歩き出してしまう。
受け取った生徒証を見て、少年―――阿久根高貴自身もまた、本屋へは入らずなまえと反対方向へと歩き出した。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -