「"宗像"って…!おい…まさか、"ソイツ"……!!」

再びコチラへ戻ってきた古賀を心配している場合ではなかった。
名瀬は、ゆらりと視線を高千穂へ動かした宗像から視線を逸らせない。

「"ソイツ"は卑怯だろ…!なんで、"そんな奴"がこの学園に……!!」

「………………」

「あー、一応言っておくが、お前のことだからな。宗像」

「僕もそこまで馬鹿じゃない。仮にも指名手配されてるんだからな」

「ならいいけどよ」

そこで初めて、宗像は名瀬のことを視界に入れた。
むしろ意識に入れたのが初めてだったかもしれない。
古賀は立ち上がりながら、一体彼らが何の話をしているのかがわからなかった。
階段下のなまえを見て、彼女も理解出来ていないことがわかる。

「"そんな奴"だなんて失礼だな。僕は君の1個上なんだが」

「お…おかしいだろ、"指名手配犯"がこうやって普通に学生をしてるだなんて…!」

異常だ。ここにあるという結果も、ここにいるという存在も。

「理事長から聞いてないのか?僕も計画のメンバーだ」

「………………」

名瀬は、宗像の隣に立つ高千穂へと視線を移した。
しかしそれも一瞬。
宗像を視界の外に入れるのが怖いとでもいうように、名瀬はすぐに宗像へ視線を戻す。
理事長に"計画"のメンバーについての詳細を聞くのは、自分が本格的に"計画"へ参加する2年生になってからという話しだった。
だが、名瀬は後悔していた。
・・・・・・・・・・・・・・
こんなにヤバイのがいるのなら―――入学前に、教えてもらうべきであったと。

「どうする?名瀬ちゃん」

「どうするもなにも、十三組が三人も出張ってきた時点で勝ち目はねーよ。古賀ちゃんが負けるなんて思ってねぇけど、無傷ってのは無理だ」

そう言いきった名瀬は、目的を諦めることに少しの躊躇いも無いようである。
既になまえから興味は無くなっており、静かに息を吐いた。

「行こうぜ古賀ちゃん。この前言ってたオススメのファミレス、連れてってくれよ」

「私ならまだ大丈夫だよ。名瀬ちゃん。それに、異常アブノーマルが3人もいたら逆に連携取れずに自滅するでしょ」

「おいおい待てよ。別におれ達は後輩と喧嘩しようと思って出てきたんじゃねえんだ」

二度攻撃が失敗したくらいでめげる古賀ではない。
帰る気満々の名瀬を尻目に、古賀は階段下にいる高千穂たちを視界に入れた。
だが、無表情のままでいる宗像は別として、高千穂やなまえに古賀と戦うつもりはないようだった。
高千穂は今にも飛び掛ってきそうな古賀を目の前に、やれやれと両手の平を向ける。

「おれ達が用あんのはコイツ。だからさ、お前達はまた今度ってことで。な?」

「いいんだよ古賀ちゃん。別に今じゃなくたって。タイミングなんてものはまたすぐにでも来るからさ」

「…………………」

納得がいかない様子の古賀に名瀬は溜息をつかなかった。
それでこそ自分の親友だし、だからこそ元普通ノーマルだと理解している。
こうやって背を向けて歩き出してしまえば、彼女は自分を選んでくれるということも。

「宗像。1つ訂正しておくが、トラブルに巻き込まれてるんじゃなくてこいつがトラブルの原因なんだろうよ」

名瀬たちがいなくなった階段上から視線を隣に立つ宗像に動かしながら、高千穂は相変わらずの飄々さを醸し出しながらそう呟いた。
しかし宗像にとってその発言はどうでも良かったらしい。
既に高千穂は視界に入っておらず、乱れた髪を直すなまえを視界に入れていた。

「二人とも久しぶりだね」

「…ああ。久しぶりだな名字」

「…………………」

「待てよ宗像」

相変わらずの笑みを浮かべるなまえから視線を逸らし動こうとした宗像の名を、高千穂が呼ぶ。
宗像は普段通りの無表情で振り返ったが、少し機嫌が悪そうだった。

「ほら、ついでだし仲直りしとけ」

「仲直り?」

「お前ぼっちをこじらせすぎだろ…ってあぶねえな!ナイフ投げんな!!」

流石の反射神経というか、高千穂は宗像が投げたナイフをすべて避けており、そのナイフは後ろの壁に突き刺さっている。
なまえは勿論、高千穂も宗像がナイフを投げた瞬間を見ることは出来なかった。
高千穂の場合、見えるか見えないかは関係ないが、なまえはそのナイフが自分の方に飛んでこないよう祈るくらいしか出来ない。
しかし、高千穂のような反射神経を持っていないなまえは。

「なぁっ!?」

「っ…!………!?!?」

宗像形に抱きついていた。

「な、なななにしてんだお前!!」

「っ!!?、!っ!?!?」

突然のことに抱きつかれた張本人である宗像は勿論、そんな意味のわからない状況を見せられた高千穂も混乱に言葉が上手く出てこない。
しかし抱きついた本人であるなまえはそんな二人をどうしたのかと見上げた。

「え?なにって…仲直りだけど」

「は、あ?」

「この前、他のクラスの人とこうやって仲直りしたの。だから宗像くんとも仲直り」

ね、と言ってから、なまえは宗像から離れる。
高千穂は1人冷静ななまえの言葉を頭で再生し、今何が起こったのかを理解しようと必死で頭を回転させた。
なまえに抱きつかれていた宗像は混乱で思考が停止しているのか、普段見せないような表情で固まっている。
宗像のこんな人間らしい表情を初めてみた――――ではなく。

「ちげえよ!!!!」

高千穂は自分でも驚くほどの大きな声が出たが、そんなことを気にしている場合ではない。

「ああああのなあ!何を勘違いしてんのか知らねぇけど、仲直りって、違うだろ!!」

「違うの?」

「ち……違う!久しく仲直りなんてしてねぇが、それは絶対に違う!!」

あの二人がもう少し残っていてくれれば、とあの二人を帰した自分に怒りすら覚えるくらい高千穂も混乱していた。
宗像は既に殺人鬼としての威圧は無く、魂の無い人形のようにそこに立ち尽くすだけ。
軽く肩を押したらそのまま後ろに倒れるのではないかというくらい、彼に生気を感じなかった。

「つーか誰だ!お前にそんな仲直りの方法教えた奴!!」

「門司」

「誰だよ!!」

んな奴知らねぇ!と高千穂が騒ぐが、なまえは眉間に皺を寄せて首を傾げるだけ。
高千穂は頭を抱えたくなったが、それよりも目の前の殺人鬼をどうにかしなければ、と思考を切り替える。

「宗像。おーい、宗像?」

「こ……………」

「こ?」

「殺す」

「なんでだよ!!」

高千穂の悲痛な叫びが辺りに響くだけで、誰もこの状況を救う手立てなど持っていなかった。


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