学校もいつも通り終わり、二年十三組である名字なまえは日之影に「また明日ね」と別れの挨拶をし、日之影もいつも通り「ああ。また明日」と軽く手を振って黒板を綺麗にしようと立ち上がっていた。
何度か教室の手伝いをしようと声をかけたのだが、一人で大丈夫だとその度に断られてしまっている。
生徒会長としての仕事で帰るのはいつも18時以降らしく、部活動をやっている生徒と大して変わらないそう。
そういえば日之影くん以外の生徒会のメンバーを知らないな、なんて考えながら今頃なら家に着いているはずで、制服から部屋着に着替えているはずなのだが。

「……………………」

どうして自分は駅前のファミレスで椅子に座っているのだろうと沈黙する。
しかも、なまえの目の前のテーブルにはスパゲッティやピザなどが並べられていた。

「いやあまさか偶然お会い出来るとは」

「えーっと……」

「遠慮はいりませんよ。あのときのお礼です」

言葉に詰まったのは、なまえが目の前の彼のことを思い出せないからではない。
むしろ彼のことなど忘れてなどいない。
嫌と言うほどではないが、彼のことはしっかりと覚えている。
中学時代に出会った、車が大好きな少年。
――――百町破魔矢。

「にしても名字さんはこんな時間に何を?」

「ん?いや、学校から帰る途中だったんだ」

百町がこちらにした質問は、なまえがしたい質問でもあった。
制服姿のなまえに対し、百町はどう見ても私服である。
同い年くらいだと思っていたのだが、もしかして年上だったりするのだろうかとなまえは表情の無い顔を観察してみた。
雰囲気は確かに大人びてはいるものの、少し残る幼さはまだ消せていないらしく、年上と言う選択肢は消える。
だとしたら制服の無い学校にでも通っているのだろうか、とまで考えて。
百町もまた、こちらを観察していることになまえは気付いた。

「ああ…その制服、どこかで見たことがあると思えば箱庭学園のものですか」

「そうだけど…制服だけでよくわかるね」

相変わらず百町の顔の右半分は方までの長い髪で見えなかったが、そのどちらもこちらを向いているということだけはわかる。
そして、寒い時期でもないのにマフラーをしているのも変わっていなかった。
マフラーの色は、確か前回会ったときは白だったような気もするがあまりきちんと覚えていない。

「それは…まあ。私も箱庭学園の生徒なんです」

「あれ…そうなの?」

「ええ。生徒といっても授業に出ているわけではありませんが」

なまえが疑問を口にする前に、私服を着ている理由を百町は遠まわしに口にした。
どうやらなまえが百町を観察していた理由を悟ったらしい。
そんなに顔に出ていただろうか、となまえは此処に誰もいなかったら自分の頬をつねりたい気分だった。

「うーん…ってことは、百町くんはもしかして十三組?」

「ええ」

そのあとに「勿論」、とでも続くかのような声音で百町は首を縦に振る。
確かに初対面のときの車好きっぷりは素晴らしかったよな、と困り顔だった店員たちの顔を思い出した。

「名字さんは?」

「私も十三組だよ。ってことは、もしかしてクラスメイトだったの?」

「私は一年生ですよ?」

「え!」

「えって…まさか名字さん。同い年だと思っていたんですか?」

そこで初めて、百町の表情に少し変化が見られた。
しかしそれも一瞬のことで、彼は慣れたように表情を元に戻す。
その無表情さにふと殺人鬼と呼ばれるクラスメイトを思い出したが、なまえはすぐに話を戻した。

「百町くんは、私が年上だって気付いてたの?」

「それはまあ……年上ではないかな、と思ってはいました」

「そっか…それじゃあ去年学校で会わなかったのも頷けるね」

なまえは1人、何かに納得したように首を縦に振る。
目の前に並べられた料理が冷めてしまうから、と百町にすすめられなまえは遠慮しがちに手を伸ばした。
百町もお腹は空いているらしく、目の前にあるドリアを一口、口へ運ぶ。

「もしクラスメイトだったとしても、お互い十三組なんですから学園内で会うことは早々無いと思いますが…」

「そう?百町くんが登校してきたら、会えるんじゃないかな」

「……もしかして、名字さんは授業を?」

「うん。受けてるよ。無遅刻無欠席ってわけじゃないけど」

そう考えると、やはり生徒会長というべきか、無遅刻無欠席を今日までやり遂げている日之影は優秀だな、となまえはスパゲッティを食べながら考えた。
本来はなまえも無遅刻無欠席をしようと思っていたわけだが、入学式早々に躓いてしまい、それは叶わぬ夢となったのである。

「本当に良かったの?おごってもらっちゃって」

「ええ。構いませんよ。お礼がしたいとずっと思っていましたので」

あれからしばらく食事をしながら会話をしていた二人だったが、お互いに長居は無用だと食べ終わるとすぐに会計をして店を出て行った。
ではまた学校で、などと学校に行く気の無い百町が言えば、なまえは笑顔で「またね」と返すだけ。
百町はなんだか肩透かしをくらったような気分で既に歩き出しているなまえの背中を見送った。

「……………………?」

ふと、百町は振り返る。
そちらが百町の帰る方向だったのでそちらを向くことはおかしいことではないのだが、百町は何故振り返ったのかを振り返りながら不思議に思った。
そして。

「おっと」

「あ……」

道を歩いていた通行人と、振り返った拍子にぶつかりそうになる。
百町自身がというよりは百町が身につけている長いマフラーが、ということだったが百町はその通行人に視線を向ける。

「悪い。少し驚いただけだから気にするな」

「……そうですか」

そう言って笑った青年から、百町は興味無さそうに視線を逸らして歩き出した。
そんな百町に青年は何も言わず、百町が謝らなかったことに関しても特になんとも思わない様子で足を進める。
二人は1度も振り返らず、進むべき道を歩いて行った。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -