「―――で、身体の方はどうよ?古賀ちゃん」
「うん。もうバッチリ!でも、名瀬ちゃんってばどうして十一組なの?」
「古賀ちゃんも知ってると思うけど俺ってば学校大好きなんだよね。十三組って登校義務無いじゃん?だからさー」
「は、初めて知ったよ……」
ていうか絶対嘘でしょそれ、という言葉を古賀は飲み込んだ。
場所は時計台の地下四階にある工房。
その上の三階には沢山動物がいて軽く動物園のようになっているのだが、分厚い天井や壁のおかげか不思議と鳴き声などは聞こえてこない。
電気はついていて明るいが、機械ばかりが並ぶそこは雰囲気的に薄暗く、冷たいそれらに古賀は少しだけ肌寒さを感じていた。
「ま、人間観察ってのが主な理由だけどよ―――出来ることなら二年十三組にでも入れてもらえば良かったぜ」
「それは無理だよ名瀬ちゃん…」
しかし、古賀いたみはそう言ってからふと思い出す。
「あ、でも風紀委員長は確か飛び級した子なんだっけ?」
「まあな。しっかし理事長もよく見つけたもんだよ。"特例"に近い"異常"なんてよ」
「うーん…?それって、凄いの?」
「凄いっていうよりは異常っつうか…。特例組にいてわかったが、あいつらは異常みたくある特定のものがずば抜けてるわけじゃない。大抵のことは練習をすれば人並みかそれ以上に出来て、その中で何かが秀でてるってのが大多数だ。だけど俺たちは違う」
古賀はベットの上で自分の身体の具合を確かめているのか、名瀬へと疑問を口にしながらも柔軟体操を続けている。
そんな行動は日常茶飯事で慣れているのか、名瀬は古賀に視線を送るだけで特になんとも思っていないようだった。
思うとすれば先ほど聞いた"身体の具合について"であろうが、名瀬の表情は相変わらず無気力なままである。
「まあ古賀ちゃんは元が普通だからある程度は普通に出来るかもしれないけどな」
「でも名瀬ちゃんに改造されてからもテストは平均点ジャストだったよ」
「頭の良さも改造して欲しかったならそう言ってくれればやってあげたぜ?元々パラメーターに振ってる数値が違うんだよ。古賀ちゃんは全部に平均的に振ってて、俺は"改造"に関すること以外には振ってない。で、俺はそんな古賀ちゃんの平均的なパラメーターにちょっと手を加えたのさ。だけどあの委員長はほぼ全部に異常なまでに数値が振られてる"万能型"だ。まだ子供だからその数値はあそこで留まってるって感じだろうよ」
ニコニコとした笑顔のまま古賀が普通の人間じゃ出来ないであろう体勢を取るので、名瀬は苦笑いで「その体勢はちょっとな」とだけ告げた。
その反応に古賀は少し首を傾げる程度だったが、すぐに言いたいことがわかったらしく体勢を元に戻す。
「ま、出来るだけあの風紀委員長には関わらないのが良いかもな」
「えー。私、あんな子供には負けないよ?」
「勝ち負けの話じゃないし俺の手がくわえられた古賀ちゃんのエロイボディが負けるだなんて思ってねぇが、触らぬ神に祟りなしってな」
「なら、名瀬ちゃんが言ってたあの人のことは?」
「ん?」
もう柔軟体操はいいのか、古賀はベットにあぐらをかいて座っていた。
名瀬と違って学生服ではなくショートパンツを穿いているのでパンツが見えることは無い。
それに女同士でしかも向かいにいるのは名瀬なので、古賀は自身がスカートだとしてもなんとも思わないだろう。
「名字なまえって先輩のこと」
「あー。あの人はいいんだよ。古賀ちゃんも、関わりたかったら挨拶に行ってみたらどうだ?案外笑顔で受け入れてくれると思うぜ」
「いいよ。私は。興味ないし…名瀬ちゃんがそこまで気にするのも、よくわからないし」
「そうだな。確かにわからない」
「え?」
今度は古賀が首を傾げる番だった。
人間観察のためという理由で十一組に入った名瀬が気にかける少女のことを、名瀬が理由もなく気にするはずがない。
それに先ほど「二年十三組に入りたい」と言っていたのも、その少女を観察するためだろうと古賀は考えていた。
だからこそ、どうしてそこで名瀬が首を傾げるのだろうと疑問が口から零れてしまう。
「まあ、"前任"に対する敵対心かもな。誰もわからなかったあの人の"異常"を、この俺が理解してやるっていう」
「ふーん。私は別に興味ないけど、名瀬ちゃんが言うんだったら私も協力するよ」
「ありがとな古賀ちゃん。古賀ちゃんが出るほどのことじゃないけど嬉しいよ。流石俺の友達だ」
「当たり前でしょ」
えへへ、と年頃の可愛い笑顔を浮かべる古賀の向かいで、名瀬は不気味に口端を上げた。