暗いのか、明るいのか。それすらもわからなかった。

「何を……した?」

「何って………見てわからない?」

夢を見ている、というのを頭の隅で理解する。
見覚えのある景色。
身に覚えのある雰囲気。
何故、今になってこんなものを思い出す。

「貴様は危険すぎる。死武専にとっても、世界にとっても」

「私は、そんな風に言われるようなものじゃない」

「いいや。強さとか弱さではない―――その能力は、危険すぎる」

目の前にいる顔の怖い男は誰だったか。
そうだ―――彼は。
黒く大きな鎌を手に持つ彼は確か。

「死神がそう言うなら…そうなのかもね」

私が手に持っているのはなんだったか。
自分の夢だというのに、視界が上手く動かない。
死神の後ろで倒れている影の中に、見覚えのある人物がいた。

「(………シュタイン)」


「彼らの魂に、一体何をした」

「そんなことは…どうでもいい。私は、自分が安全ならそれでいい」

夢を見ている自分の通りに、夢の中の自分は動かない。
ただ繰り返す。
忘れてもいなければ特に覚えてもいなかった過去を、ただ再生しているだけ。

「ならば貴様を狩るまでだ」

「最初から、そのつもりじゃなかったの」

どのくらい戦っていただろうか。
しかしそれでも夜は明けない。
普段不気味なほどに笑い、彼らを見下す月ですら、その戦いには目を瞑っていた。
そして、もうすぐ自分が斬られることを、見ている自分は知っている。
悲鳴も無く、言葉も無く。
鬼神とは違う――――他の職人とも絶大的に違う。
ただただ、死神の強さを思い知らされただけ。
痛みがあったのかは思い出せない。
地面に伏せ、魂は死神の手に。
だけど、それでも。

「その魂は―――返してもらう」

いつか、必ず、絶対に。
景色が変わる。

「地下に鬼神がいるのは君も知ってるよね?」

「まあ……なんとなくは」

死神の部屋。
身体は重い。
それは怪我のせいもあったが、それよりも手や首につけられている錠の方が原因であった。

「じゃあ単刀直入に訊くけど、君はあの鬼神を殺すことが出来るのかな?」

「――――出来ない」

即答だった。
殺せるか殺せないか。それを考えたことはそれまで無かった。
自分に危険が及べば、その危険自体を排除する。
しかし、死神と戦って、ブラック☆スターのことを除き、初めて自分は危険を排除することが出来なかった。

「そっか」

しかし、死神はその否定に驚く様子もなく、ただ頭を縦に一度振っただけだった。
薄々、そんなことだろうと考えていたのだろう。

「殺して欲しいのなら、魂を返して」

「それは出来ない」

「だったらあなたを殺す」

「それも出来ないでしょ?そうだね、だったら契約をしよう」

契約、という単語に過去の自分が首を傾げたところで、景色は変わる。

「…………………」

外は天気が良く、久々に見た太陽の光が眩しくて目を細めた。
生徒たちは昼休み前の最後の授業を受けているらしく、廊下や玄関に人影は無い。
地下から滅多に出ないと言っても、地上に出ることを禁止されているわけではなかった。
しかし別に好き好んで外に出ているわけではない。

「(これは………)」


この記憶は、と小さく呟く。
それが過去の自分に届くはずもなく、ただただ自分は歩いていた。

「――こんなところにいたの?ノイズ」

自由奔放なノイズは、契約によってデス・シティーから出ることを許されていない。
だとしてもノイズは猫なので、出て行かないように管理するのは自分である。
だから、あの日もいつも通り、ノイズを探しに地上に出て。

「あ…………」

「ど、どうも」

彼と出会った。

「その猫、ノイズっていうのか?」

「うん。あなたは?」

「え?あぁ…オレはソウル=イーター。"武器"だ。あんたは?」

その名が本名とは別に自分で決めた名だということはすぐにわかった。
だけど覚えやすい名前だ、とも思った。
そして"武器"と付け加えた少年は死武専の生徒で、面倒だと授業をサボっているのだろうと考える。

「私はナマエ。"職人"だよ」

そう紹介すればわかりやすいだろうと、簡潔にそれだけを口にした。
しかし少年は「死武専の生徒なのか?」と質問をしてくる。
確かにここは既に死武専の敷地内ではないし、彼のクラスで自分を見かけるわけもないのだからその疑問が出てもおかしくはない。
そして、死神との契約に、自分の正体をバラさないという内容は無かった。
だから、首を横に振るかどうか、少しだけ悩んだ。
でもそれは、大きな声にかき消される。

「ひゃっはー☆」

何事かと振り返れば、ソウル=イーターと名乗った少年と同じ歳くらいの少年が元気良く現れた。
しかし、自分はそのとき言葉を失った、んだと思う。
まさか―――こんなところで。
こんな形で、自分が"殺さなかった"あの一族の生き残りと出会うだなんて、思ってもいなかった。
忘れていたわけではない。かといって特別に覚えていたわけでもない。
頭の隅でぼんやりとあったその記憶が、その右肩のマークで浮かび上がった。

「星族………」

その呟きは無意識だったと思う。
あそこで、ノイズがいなくて良かったと今になって考える。
もしも居たら、きっと何も考えずに武器を構えていたことだろう。
危機を感じた。危険を悟った。彼は自分を殺すのでないかと、それしか頭に無かった。


「―――――あれ?」

目が開く。
見覚えの無い景色と、自分の口から出た声に、目が覚めたのだと理解する。

「……………………」

此処は何処だろう。


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