「博士!マリー先生!」

「いったい何が!?」

磁場の竜巻の中から倒れるようにして現れた二人に、キリクとオックスが驚いたように彼らを見下ろした。
マリーはすぐに起き上がり二人にシュタインを見ているように言うが、倒れたままシュタインがそれを制する。
一旦外に出たとしても、一度外に出たところで受けた磁場の影響は消えない。
このままマリーが中へ入ったとしてもすぐに身体が映像化してしまい、つまりは無駄死にである。

「皆まだ中にいるのか?」

「俺たちに行かせてください」

マリーが必死で中に入ろうとするのを、オックスとキリクが止める。
代わりに自分達が中へ入るとマリーの前へ出た。
しかし、マリーが両手を広げそれを阻止しようとする。

「絶対に駄目よ!これ以上生徒をこの中に入れるワケにはいかないわ。命令が聞けないなら全教科赤点。退学よ」

マリーの真剣な表情にも、キリクとオックスの表情はかわらない。
オックスのパートナーであるハーバーが『赤点』という単語をきいてオックスを心配するが、「何を迷う必要がある」とハーバーの名を呼んだ。

「愚問だな」

「仲間を守ってこそ死武専生でしょう」

二人の気迫に圧され、マリーは一瞬固まった。
その硬直を二人が見逃すはずもなく、躊躇せず竜巻の中へと姿を消す。
それに手を伸ばしたマリーであったが、しばらく竜巻を見つめたあと、膝からその場に崩れ落ちた。
必死で歯を食いしばり、膝の上に乗せた両手をキツく握り締める。

「バカみたい…退学だなんて。私みたいな新米教師にそんな権限ないのに。退学ぐらいであの子たちが止まるワケないじゃない…」

大人なのに、先生なのに。
何も出来ない自分が歯がゆい。
ナマエとシュタインが戦ったあの日のことも重なって、自分の無力が虚しかった。
いけないとわかっているのに、自然と涙が零れ落ちる。
一度零れてしまったそれは、次々と溢れて止まることを知らない。
それと同時、マリーの胸を不安が覆った。

「どうしよう…もしあの子たちが帰らなかったら……」

そんなマリーの手を、シュタインは優しく握り締める。

「泣かないでマリー…作戦の失敗もすべて―――全部…俺の責任だ…全部……」

そこまで言って、シュタインはマリーの手から手を離し、勢い良く仰向けに転がった。
冷たい雪が髪を濡らすのも気にせず、シュタインは笑う。

「ひゃははは」

笑いは深く、静かに、狂ったように、その場に木霊して。

「全部俺の責任だ」

その言葉が、シュタインの頭に突き刺さる。

「全部」

狂気が言葉に。
言葉が凶器に。

「全部……ひゃははは」

笑う。何が面白いのかもわからずに。ひたすら笑う。声をあげて。何がおかしい?何もおかしくない。なんだよ笑えよ。面白いだろ。自分のせいで誰かが死ぬ。笑えよ。笑えばいい。何笑ってるんだ。面白くない。笑うな。黙れ。

「全部ナマエが悪い」

「え?」

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

シュタインの笑い声だけが、その静かな空間に響き渡る。
隣でシュタインの呟きを泣きながら聞いていたマリーであったが、その高笑いをする前の呟きは聞こえなかった。
だからつい聞き返してしまったのだが、それをシュタインが答える筈もなく。
その笑い声と共に、生徒が無事に帰ってくるのを待つしかない。

「……………………」

どれくらい経過しただろうか。
バチン、バチン、という音と共に見覚えのある姿が竜巻から姿を現したことに、マリーは一瞬だけ安堵の表情を浮かべる。
しかし立ち上がると同時に真剣な表情へ変わり、怒ったように彼らの前へ立ちふさがった。

「申し訳ありません…魔道具を奪われました…」

「勝手なことを」

キッドの言葉に応えず、マリーはただただ彼らに向かって手を振り上げる。
叩かれる、と生徒全員が怯えた瞬間。
マリーの腕が、職人5人を抱きしめた。
無事で良かったと零すマリーを、シュタインは疲労の表情を浮かべたまま見つめる。
そしてふと、姿無き彼女のことに気付いた。

「皆さん……ナマエは一体どこに?」

「え?先に戻ってきて無いんですか?」

「中で会わなかったから、てっきり戻ってきたものだと…」

シュタインの質問に、マカが首を傾げて質問を返す。
そのあとにキョロキョロと辺りを見渡しながらオックスが言うが、そこにナマエの姿は無く。

「まさかまだ中に……!!」

キリクが、戦慄したように竜巻を振り返った。
自分やオックス、そして死神の息子であるキッドは平気だが、マカ達よりも先に入ってまだ出てきてないということは。
言葉にしないだけで、最悪の結果を、キリクは想像する。
そして舌打ちをすると、中へ入ろうと足を踏み出した。

「待て!」

「なっ、キッド!どうして止める!アイツの身に何かあったかもしれねぇだろ!」

「なら俺が行く!俺の身体ならまだ大丈夫だ」

「俺たちだって2、3分しか入ってねぇ!一緒に行くぜ!」

「し、しかし……」

キッドとキリクが言い合い、オックスも中へ入る気満々である。
マリーはどうしたものかとシュタインを見るが、苦しそうに下を向くシュタインに何も言えなかった。
しかし再び、バシン、バシン、と竜巻から音がする。

「っと。ギリギリセーフ、かな?」

「ナマエ!!」

軽い足取りで竜巻から出てきたナマエに、驚いたようにキリクが声を上げた。
それに驚いてそちらを見てみれば、下を向いて苦しそうにしているシュタイン以外の全員が竜巻から現れたナマエを見つめている。
コートをいつの間に脱いだのか、ナマエの服装はこの島に上陸したときのものになっていた。

「流石に早かったというかなんというか…」

「早かった?」

「ああいや、BREWは手に出来なかったってこと。中広すぎて迷子になるねここ」

ナマエのひとり言が聞こえたのが近くに居たオックスとハーバーだけであったのか、他の皆はナマエのBREWについての報告を聞いて諦めたように目線を下げる。
マカ達のもとへ現れなかったのも、途中すれ違わなかったのも、ナマエが迷ったせいだろうと彼らは推測した。

「(この子―――――)」

マカは何故か、無意識のうちにナマエの魂感知をしていた。
しかし見えたのは特に特徴があるわけでもない、ただの小さな魂だけ。
そのまっさらで何も無い魂で、一体何をしたというのだろう。

「しかしほんと、いくらなんでも寒すぎるでしょここは。作戦も終わったんだし早く帰ろう」

「あれ?ナマエ、お前コートどうしたんだよ」

「え?なんか磁場の中歩いてたら何処か行っちゃったよ。ソウルってばよく無事だったね」

「コートの話か?それは」

「コートの話し始めたのはソウルでしょ」

「やっぱり寒さでキャラ変わってるなお前」

「寒いもんは寒い!」

武器から人間の姿へと戻ったソウルが、ナマエの服装の違いにつっこむ。
しかし寒さでそれどころではないのかナマエは自分の身体を抱きしめるように寒さに震えていた。
次の瞬間、最後にそう叫んだナマエの頭上から、何かがバサリとナマエを覆う。

「!?」

驚いて勢い良くそれを取ると、どうやらコートのようだった。
ナマエより少し大きめのそれを見て、ナマエは振り返る。

「寒いのでしたらそれ、どうぞ。私に支給されましたが不要でしたので」

「………………ありがとうございます」

「―――――?」

ナマエの背後に立っていたのは、笑顔のジャスティン=ロウ。
デスサイズと呼ばれる一人であり、パートナーをもっていない"武器"である。
二人の会話に何か違和感を覚えたソウルであったが、気のせいだろうと相変わらず音漏れしているジャスティンを見上げた。
次いで優しいその笑みに会釈を返し、自身を呼んだマカの元へと走り去る。
それを見送ることもせず、ジャスティンはナマエに微笑みかけた。

「なんでしたら抱きしめて暖めて差し上げましょうか」

「あーコート暖かい」

羽織ったコートの暖かさに喜びながら、ナマエはジャスティンの言葉を無視して帰りの船へと足を進める。
そんなナマエの背中を見つめながら、ジャスティンは笑みを深くした。

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