磁場の中を、唇を噛み絞めながらマカは歩く。
「あなだだけでは危ない」だなんてナマエを心配するような台詞を吐いたが、自分が彼女にそんなことを言える立場かどうか、顔を歪めた。
橋の上でのフリーとの戦いを見せ付けられ、自分よりもソウルの扱いが上手かった彼女を見て。
自分はなんて力不足なんだと己の無力さを嘆いた。
そして、先生であるシュタインの過大評価ともいえる彼女の評価にも納得した。
オックス達がああして反発したのは、彼女の強さを知らないからで。
鬼神と最後に戦っていたのは彼女のような気もして、そんな彼女に他の生徒と同じよう、友達みたく関わろうとするのが良いか悪いかがわからない。

「(おいマカ)」

「な、なによ」

「(何考えてんのかはわかんねーけど、魂が凄い不安定だぞ。大丈夫か?)」

「別に…平気よ」

それならいい、と再びソウルは黙りこむ。
そして開けた景色に唖然とした。
磁場の中とは思えない静けさと、綺麗な景色。
そして空に浮かぶ死神様。
なにがどうなっているのかと、辺りを見渡すことしか出来ない。

『死神よ』

『この施設ももう終わりね』

『逃げましょう』

周りにぞろぞろといる魔女が話す中、マカ達は彼女達を観察する。

「魔女だ…」

「私たちが見えてないみたい…」

「連中をよく見てみろ」

キッドの言葉に、マカ達は側を歩く魔女をじっと見つめた。
すると、普通ではありえない輪郭のブレが起こったのだ。

「姿がぶれている…推測だが、魔道具開発施設の大事故で生じた強力な磁場が事故前の状況をこの空間に焼きつけた。俺たちはそれを見ているのだろう。しかし…さっきピラミッドに向かった父上といい…この様子…本当に事故だったのか?」

キッドが推測を続ける中、辺りを観察していたマカが驚いたように目を見開く。
それに気付いたブラック☆スターが「どうした?」ときくが、マカとソウルはそちらを見たまま空いた口が塞がらない。

「蜘蛛の魔女アラクネ」

それに反応したキッド達も、映像であるアラクネを見つめた。
しかし勿論映像であるため、彼女はこちらを見ようともしない。
そうしている間も――――シュタインの中の狂気は加速する。

「ク……狂気が…どうしてこんなトキに…"BREW"を手に入れなければ…」

「あなたの中で…何が起こっているの?」

「気を抜くと思わぬ行動を起こしてしまいそうだ」

ジロリ、と隣にいるマリーを見るが、その奥ではマリーのことを見ていない。
それがわかったからこそ、マリーは言葉を失った。

「オイいたぞ」

「良かった…」

その聞き覚えのある声に、マリーは慌てて顔をあげる。
ここにいるはずがない生徒たちの姿に、驚いたように口を開いた。

「あなた達!どうしてこんな所に」

「何をやっている。命令違反だ」

しゃがみこんでいたシュタインが、そう言いながら大丈夫だと主張するように立ち上がる。
しかしマカ達は心配することもなく、「体が崩壊してしまうので早く外へ」と注意を促した。
その言葉に、マリーは自身の手を見下ろす。
ブブッ、と映像のように揺れる自分の手を見て、体が映像化していることを悟った。

「しかしナマエも奥へ行ったんでしょう?」

「ナマエが………?」

瞬間、シュタインの中の狂気が蠢く。
そのことに気付いたのはシュタインとマリーだけであった。

「俺たちにはまだ10分以上残っているので、魔道具を探します」

「行くぞ」

「早く避難を」

「ちょっと待ちなさい!!」

マカ達が去ったあと、力を失ったかのようにその場にしゃがみこむシュタインを振り返って、マリーは焦ったように自分の映像化しかけている手を見下ろす。

「ナマエが………」

「シュタイン、行くわよ…」

今のシュタインに何を言っても届かないと悟り、マリーはシュタインの腕を肩にまわして一歩一歩確実に磁場の外へと歩いて行く。
シュタインは血走った目だけを動かして辺りを忙しく見渡し、ひたすら「ナマエ」と呟いていた。

「まだ、あの子を殺す気なの……?」

「ナマエ……ナマエ…ナマエ………」

「あなたたちに何があったのかなんてわからないけど、あんな展開はもう勘弁、だからね……!」

ナマエが目を覚ました夜のことを思い出す。
ソウルをナマエが庇っていなければ、確実にシュタインはソウルを殺していたであろうあの夜。
何も出来なかった自分の無力さに苛立ち、唇を強く噛みしめた。

「何よ何よ何よ何よ…!生徒の一人も守れないで、私、先生なんて名乗って………!!」

苛立ったマリーの少し遠く。
黒い髪が揺れた気がして、足を止めてそちらを見た。

「…………………え?」

真剣な表情で、彼女は長い髪を揺らして歩いていく。

「ああ……ナマエちゃんか…」

先ほどマカ達が言っていた言葉を思い出し、そういえば彼女も磁場の中へ無断で入ったみたいだな、と再び歩き出す。
黒い髪を揺らしながらナマエはマリー達に気付くこともなく、真剣な表情でピラミッドを目指していた。

「(……そういえば)」

磁場の中を、顔をしかめながら歩いていく途中でマリーはふと気付いたことを口にする。

「結局あの子、コート着なかったのね。こんな寒いのに」


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