今朝は十分に時間に余裕を持って地下を出たので、教室へは授業開始10分前に到着していた。
といってももう少し早く着くつもりだったナマエは、持っていた時計を見つめて小さく溜息をはく。
そして教室へ繋がる扉を開けた。
「…………………」
中には既に人がいて、先日突然現れたナマエに良い意味でも悪い意味でも興味があるのか、こちらをチラチラと盗み見してくる者も何人かいる。
しかしそのことに気付いていないかのように扉を後ろでに閉めた。
「あ、ナマエ「ナマエー!おはよう!!」
誰かの声を遮ってナマエに声をかけたのはキッドとマカの間に座っているリズであった。
そのまま机を飛び越え階段を降り、勢い良くナマエの元へとやってくる。
「お、おはようリズ…」
「ナマエの席はこっちな!」
「え、ちょっと!」
ナマエの腕を思いっきり引っ張り、パティとキッドの後ろを通過。
その後リズが先ほどまで座っていた場所にナマエの両肩を押して座らせた。
「ナマエはキッドの隣!あ、椿、隣行っても良い?」
「私は別に構わないけど…」
「ちょっと待てリズ!なんでオレがコイツと隣にならなくてはいけない!」
「いーじゃん別に!私は椿との友情を深めるの!」
「ナマエー!おっはよー!」
「あ、パティ。おはよう」
キッドの横から顔をひょっこりと出して挨拶してきたパティに、怒鳴りあうキッドとリズを無視して挨拶を返す。
「そんなに嫌ならキッドがどけば良いじゃん!」
「ここからだと丁度教室が左右対称に見えるんだ!譲れん!!」
「おいマカ」
「え、あ、な、何?ソウル」
突然の騒動に唖然と隣でそれを見ていたマカが、反対隣にいたソウルに突然話しかけられて驚いたように振り返った。
視界に入った不機嫌そうなソウルに、マカは後ろの騒ぎも忘れて首を傾げる。
「席代われ」
「え、なんでよ」
「そんだけ騒がしいと授業集中できないだろ?」
「いや、席一個変わっただけじゃ別に……」
「い い か ら 代 わ れ」
「わ、わかったわよ…」
一層不機嫌な表情で半ば脅すようにマカへ席の交換を言いつけたソウルに、マカは少し驚きながらも立ち上がった。
ソウルは素早くマカが座っていた椅子へ移動すると、ぐるりと身体ごとナマエへ向く。
「ナマエ」
「あ、ソウル」
「おはよう」
「お、おはよ……?」
なんだか普段と雰囲気が違うソウルに、ナマエは首を傾げながら返事を返す。
しかしそのまま不貞腐れたようにナマエを睨み付けるだけ。
対応に困ったナマエは、どうしたものかとその視線に応えるように見つめ返していた。
「ソウルに私の邪魔はさせないからな!」
「は?邪魔とか何がだよ」
「べっつにー」
「あ、キッド。リズの服装が左右対称じゃないぜ」
「あ、おいソウル!!」
「何!?1からオレがコーディネイトしてやる!脱げ!」
「誰が脱ぐか変態やろおおお!!」
その場の勢いでキッドを吹っ飛ばしてしまい、キッドはそのまま伸びてしまう。
「しまった…」と自分の拳を見つめるリズに、にやっとソウルが勝ち誇ったように笑みを浮べた。
何か言い返したいリズであったが、タイミングよく鳴ったチャイムにそれも遮られる。
ガラッ、と扉を開けて入ってきたシュタインに、緊張したように隣のナマエをソウルは盗み見た。
しかしその表情に変化は無い。
シュタインのほうも、ナマエをチラリと見ただけで特に何の反応も見られなかった。
「(………なんでオレが緊張してんだよ)」
チッ、とソウルは心の中で舌打ちをして頬杖をつく。
「それでは授業を始めます」
その言葉と共に、シュタインが生徒の出欠をとっていく。
少しざわついているものの、そんなに教室内が騒がしいといいうことでもない。
「マカ?久々に授業に出て体の調子はどうなの?」
「バッチリ!暴れたいくらい」
後ろからのリズの質問に、半分振り返りながら元気良くマカが答える。
「じゃ放課後うちでのパーティ来れる?」
「立ちなさんな…」
「クロナも呼ばないとな」
「うん♪うん♪」
「ナマエも来いよ!」
「あー、ごめん。せっかくなんだけど私今日予定あるんだよね」
「えー!まあ仕方ないかあ。じゃあ今度遊ぼうな!」
「うん。ありがと」
「予定とは?」
「おいキッド。ナマエの予定はお前に関係ないだろ」
「なんでここでお前が突っかかってくるんだ…」
ナマエの前へ少し身を乗り出してキッドへつっかかるソウルに、キッドが少し引き気味になる。
しかし授業中ということをわきまえているのか、キッドはそれ以上何も言わなかった。
ソウルもリズにレコードの話を振られ、乗り出すのをやめて席につく。
「あれ?ブラック☆スターは?」
「また……例の……」
「ここ最近ずっとだな」
と、何かが風を切るような音がしてナマエは無表情のまま顔を横にずらす。
その瞬間、ナマエの額があった場所をメスが通過、そして後ろの壁に勢い良く突き刺さった。
投げた犯人は勿論、先生であるシュタインである。
「私語をつつしみなさい。次、狙うよ」
「(当てる気だったくせによく言うよ)」
「(あれが避けれないほどのろまじゃないんだろ?)」
「な、何このピリピリした感じ……」
目で会話するナマエとシュタインのことに気付かないマカがキョロキョロと辺りを見渡すが、当然何もない。
他の生徒も気付いていないらしく、というかメスが飛んできたことに驚き緊張が走ったようで静かにしていた。
「(大人気ねえなシュタイン博士…)」
「何か言いましたかソウルくん」
「い、いえ何も」