パシンッ、と軽い音が響く。
その光景にブラック☆スターと椿は驚き、ナイグスを見上げた。
対し、ナマエは何もなかったかのようにナイグスを見上げるだけだった。
「先生、何を!」
「どうして何もしなかった!ブラック☆スターを気絶させてでも、お前は任務を遂行するべきだっただろう!!」
「…………………」
ナイグスに平手打ちされたナマエの頬は、ほんの少し赤みがかっていて。
椿は焦ったようにナイグスへつめよるが、ナイグスの言葉で息を詰らせる。
しかしそのナイグスの言葉に、ブラック☆スターが黙っていなかった。
「ふざけんな!あんな奴、俺と椿で十分だ!!」
「アイツが殺す気だったらお前は死んでいたんだぞ!!」
「…………っ、」
「ナイグス」
「許せない、こいつは、助けられるはずの生徒を、助けようともしなかった…!」
シドがナイグスの肩に手を置いて名前を呼び彼女をなだめるが、ナイグスの怒りは収まらない。
ナマエはそれを黙って受け止めているのか、それともただ聞き流しているのか。
ブラック☆スターは苛立ったように近くの壁を殴ると、そのまま保健室へと歩き出してしまった。
椿はこちらへ頭を下げ、慌てたようにブラック☆スターの後をついていく。
「……それじゃ。私、明日も早いから」
「待て!」
「知らないの?学校って朝早いらしいよ」
ナイグスがゆっくりと立ち去るナマエを追いかけようとしたが、シドに止められて立ち止まる。
ゆらゆらと揺れる黒髪を最後まで見送ることなく、ナイグスとシドはすぐにその場から立ち去った。
「…………………」
未だ鬼神の狂気が蔓延する空間で、ナマエは膝の上で眠るノイズを撫でていた。
狂気が笑いかけるが、ナマエは気付いていないかのように顔を上げる。
「…………どこ行ったんだろう…」
ブラック☆スターに斬られたご神体を見つめ、何も縛られていない鎖を見つめた。
「?」
ナマエは何かに気付き、立ち上がる。
膝の上にいたノイズは驚いたように飛び降り、暗闇へと消えていってしまった。
扉を開け、誰もいない空間へと足を運ぶ。
後ろで鬼神の部屋だったところへ繋がる扉が大きな音を立てて閉まった。
「……よ。ちゃんと起きてたみたいだな」
「…ソウル……」
「っつーかここ立ち入り禁止なの忘れてたからさ、先生の目を盗んでくるの大変だったんだぜ?」
「ど、どうしてここに…?」
「教室の場所わかんねーと思ってさ。お迎えだよ」
いつものようなニヒルな笑みを浮かべ、ソウルはナマエに手を振る。
ナマエは慌てたようにソウルにかけよった。
「あ、い、いや、なんつーかそんなに近いと照れ……」
「え?」
「な、なななんでもない!!」
今度はソウルが慌てたようにナマエに背中を向ける。
ナマエはそんなソウルの様子に首を傾げたが、ソウルの腕に付けられた時計を見て驚いたように口を開いた。
「じ、時間!」
「え、あ…!ここからじゃ間に合うかギリギリだな……!」
「ノイズ!」
そう振り返るが、扉は閉められていて、その声が届いた様子もない。
しばらく見つめていたが、シビレを切らしたように「行こう!」とソウルの手を引っ張った。
「ご、ごめんソウル私のせいで…!」
「別に構わねぇよ。授業サボったり遅刻したりすんのは結構したことあるしな」
「そうなの?」
「それに今日の授業はシュタイン博士の……」
と、そこまで言ったところで、失言だったかとソウルは息をのむ。
しかし前を走るナマエの表情はここから伺うことは出来ない。
「あはは。シュタイン、先生って本当に先生やってるんだ。見た目からじゃ想像出来ないのにね」
「え……?あ、ああ………」
そう笑ったナマエの声音に嘘や偽りはなく。
ソウルはそんなナマエの反応にどう返していいかわからず、ただ揺れる黒髪を見つめていた。