「で?わりと本気の殺し合いになったって?もう気をつけてよね〜」

「気をつけてってレベルじゃないですよ……」

死神の言葉に、スピリットは呆れたように口を開いた。
場所は死武専内、死神様の部屋。
遅い時間だからと家に帰されたソウル(勿論不満そうだったが、パートナーであるマカの父に言われては従うしかなさそうだった)以外は、死神へ先ほどの状況を説明していた。
未だ残る生々しいナマエの攻撃の跡が残る床を余所に、ナマエは居心地悪そうに死神とスピリットの間に並んでいる。
マリーはまだ少しビリビリしている身体に違和感を覚えながらも死神を見ており、シュタインはとりあえず顔についた水を着ていた白衣で適当に拭き、何をするわけでもなくただ突っ立っていた。
どうやら梓たちが探していたジャスティンという人物は見つからなかったらしい。

「で、死神様。流石に説明してくれますよね」

シュタインは今度は眼鏡の汚れを拭きながら、溜息混じりに説明を急かす。
しかし死神はいつも通りマイペースを全開にしており、「うーん」、と全員を見渡していた。

「ナマエちゃんは職人で、パートナーはそこにいるノイズ、って説明からでいいかな?」

死神の言葉に、梓はナマエの足元で丸まっている白猫――ノイズを見下ろす。
何事もなかったかのように寝ているノイズであるが、先ほどの剣はノイズだったのか、と真っ白い剣を思い出して梓は一人納得していた。
しかし、それだけでは説明がいかない。

「でも、槍になったり剣になってたりしてませんでした?」

「それはノイズくんの特徴だね」

「え、オスなんですか?この子」

梓が、その場にしゃがんでノイズを観察する。
こちらを見てもらいたい梓だったが、ノイズは眠ってしまったらしく皆の声にたまに耳をピクピクと動かすだけだった。

「俺が訊きたいのはそういうのじゃなくて、彼女がこの死武専にいる理由です」

そう、今度はシュタインが口を開いた。
マリーはチラリとナマエを見たが、ナマエは死神様から視線をずらすことなくただ話を聞いている。

「ナマエちゃんとは"取引"をしてたの」

「鬼神関係ですか…」

シュタインが、何か腑に落ちたように呟いた。

「どうして死神様を殺そうと?」

「"鬼神"がいなくなったから、"取引"が無くなったと思って…」

「そんな理由で…」

「あと保険で鬼神復活前に息子殺しておこうかなって殺そうともした…」

「なんてことしてるの…」

ナマエの回答に、スピリットと死神が交互に反応する。
あまり頭の良い行動ではないそれに巻き込まれた方はたまったものではない。

「ナマエちゃん、私を殺そうとするの禁止!あと死武専の生徒を殺そうとするのも禁止!」

「『じゃあどうしたら…』みたいな顔しないでください」

「じゃあどうしたら……」

死神が怒り、シュタインが呆れたようにナマエの表情について言及する。
ナマエは項垂れたが、足元にいるノイズは素知らぬ顔である。

「差し支えなければどのような取引かお聞きしても?」

「あ、私も気になってました」

梓の質問に、マリーは軽く手を挙げる。
何も言わないスピリットは、恐らく知っているのだろう。死神の方を向き、言葉を待っていた。

「ナマエちゃんの大切なものを持ってるからね。返して欲しくば、ってやつ?」

「(人質だ…)」「(人質…)」「(人質よね…)」

「言っとくけど人質じゃないよ!」

「えーん、返してほしい」

マリーたちの心を読んだ死神と、泣き真似をするナマエ。
傍から見れば先ほどまで殺し合いをしていたようには見えない彼らであるが、スピリットはシュタインの目が笑っていないことに気付いている。

「なら彼女に鬼神を任せて、駄目なようならその"大切なもの"とやらを破壊しては?」

「シュタイン…」

「必要ないでしょう、そんなもの。本来なら死んでいるんですから」

室温が一気に下がる。
スピリットはなんとかシュタインを止めようとするが、言える立場ではないとでもいうように言葉を見失う。

「それよりは、"来るべき時に備えてもらう"方がいいよね」

「…来るべき時?」

だが、死神にそのような空気は関係がない。
考えていることを貫こうとしているその姿勢に、シュタインは身構えた。
ナマエも、よくわからないという風に死神を見上げる。

「というわけで、ナマエちゃん。明日から死武専の生徒ね」

「――――はい?」

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