ただ一度、共鳴しただけだ。
助けてもらったし、サボりもチクらなかった。
それだけだったが、もう一度会いたいという気持ちはあった。そんな願望を持つなどクールな男ではないと首を横に振ったが、魂は誤魔化せない。
魔剣であるクロナと戦ったあと、ボロボロのまま見上げた空を覚えている。
遠く、姿も小さいものだった。魂感知だって武器である自分には出来ない。
それでも、鬼神の横に並ぶ人物が、ナマエであるとわかったのだ。
だから俺は、自分の怪我も(パートナーであるマカの怪我も!)二の次にして、夜中、彼女に会いに行った。
手当をされ眠っていた彼女の傷はそれほど酷いものでは無さそうだった。では狂気に中てられたのか、と訊きたいことはたくさんあった。――しかし、あの状態のシュタイン先生になにかを訊くのは憚られた。
―――こんなことになるのなら、遠慮などするべきではなかったのに。
「あなた!危ないから下がってなさい!」
「ナマエ?……何、してんだ…?先生に…マカの父さんまで………」
見知らぬ女性が俺に話しかけたような気がしたが、何を言っているか全く聞き取れない。
俺の視界には今にも降り出しそうな雲が浮かぶ夜空と、それを背景に存在するナマエたちの姿だけ。
一歩、また一歩。俺はそちらへ足を進める。
ナマエとシュタイン先生が、互いに手にしている剣と鎌を振り回しているのが見える。
だが、それはどう見ても、"鍛錬"をしているようには見えない。
クロナと戦った記憶が蘇る。
マカが握る鎌と、クロナが握る魔剣がぶつかり合う。
これはあの時と同じ―――殺し合いだ。
「シュタイン先生!ナマエに、何してんだよ!!」
「やめなさい!危ないから、ここから離れて!!」
「うるせえ!ナマエに何してんだ!離せよ!!」
気付いたら俺は、彼らに向けて怒鳴っていた。
早めた足は見知らぬ女性に止められるが、知ったことではない。
どうして俺を止める?止めるべきなのはシュタイン先生の方だ!
「シュタイン先生!なあ、冗談だって言ってただろ!?なんでこんな、大人3人がかりでナマエのこと攻撃してんだよ!やめろよ!!」
俺の言葉に、何故か目の前の女の人が怯んだ。
彼女も知っているのだろうか。ナマエのことを。ナマエが今、こうなっている理由と原因を。
「……なんだってんだよ…」
わからなかった。
こうなっている要因も、俺がどうしたいのかも。
目の前で殺し合いが行われているというのに、俺は何もできない。
『あいつが何か、わからねぇのか?』
魂の中の小鬼が問いかけてくる。
『一度は共鳴したっていうのに!情けない奴だ!!』
「…なんとでも言えよ」
『覚えてるんだろ?あの女と共鳴したときの魂の形を!』
想像しろ、と小鬼が吼える。
『魂の共鳴!どうだった?いやいや、パートナーと比べるのはナシだ。マナーがなっちゃいねえ!!お前はどう感じた?お前の魂は、あの魂を受け入れたのか?それとも、あっちの魂が、お前を受け入れたのか?』
言っていることが滅茶苦茶だ。何も伝わってこない。
だが、意味が分からないと一蹴する気にもなれなかった。
目を閉じる。俺を止めようとしていた女性が心配そうにしているのは、見なくともわかった。
「(…想像しろ?)」
一体何を。
彼女がその剣でなく、鎌を握り、振るうその瞬間を?
「……ソウル?」
音が止んだ。
うるさいくらいの雷鳴も、鬱陶しいくらいの金属音も。
目を開ける。
剣を握りしめたナマエと、女性やシュタイン先生の肩越しに、目が合った気がした。