誰もいない公園。
お昼時とはいえ、珍しいこともあったものだと午後の授業をサボることを決めた自分はベンチへ寝転がる。
共にここまで来たブラック☆スターは「俺はスターだ!!」とか叫びながら走り去ってしまい、行方はわからない。
しばらくしたら戻ってくるだろう、と揺れる木の隙間から零れる光に目を細める。
太陽の光が眩しい。

「ニャー」

「………ん?」

ふわ、と白色の毛皮が顔の上を跳ねた。

「(毛皮?)」

不思議に思い、上半身を起こす。

「―――猫」

そう。
猫であった。
ベンチへ上げていた足を地面へ下ろし、その姿をしっかりととらえる。
汚れ1つない白色の毛皮に、均整のとれた肢体。
いかにも高級そうな雰囲気の猫のその首には、存在をこれでもかと主張するように真っ黒な首輪がつけられていた。

「なんだ、お前飼い主はどうした?」

猫の尻尾が、ひょろりと弧をえがく。
小首を傾げ、その真っ黒な瞳でじっとこちらを見つめていた。

「迷子か?」

問うて答えが返ってくるわけではないが、逃げないのも珍しいのでそのまま猫へ話しかけ続ける。
人に慣れているのか、こちらが手を伸ばしたところで微動だにしない。
と、そのとき後ろから声がした。

「――こんなところにいたの?ノイズ」

可愛らしい、鈴のような声。
自分が呼ばれたわけではないが、勢いよく振り返った。

「あ…………」

「こんにちは」

そこには、綺麗な黒髪を結ばずそのままにしている、大人びた少女が立っていた。
その風に揺れる髪は胸の下くらいまであり、彼女には少し大きいであろう白いコートを羽織っている。

「この猫、ノイズっていうのか?」

このままでいるのもなんだ、と会話を試みる。
猫とは違い、問いかけへの返事があった。

「うん。あなたは?」

「え?あぁ…オレはソウル=イーター。"武器"だ。あんたは?」

まさか名前を訊かれるとは思っていなかったが、隠すことでもない。
彼女の黒い瞳が観察するようにこちらを見つめていた。

「私はナマエ。"職人"だよ」

「"職人"?ってことは死武専の生徒なのか?」

「あぁいや…」

制服を着ていないところを見ると、自分と同じく授業をサボっているのだろうか。
そうだとすると今のは少し答え辛い質問だったろうな、と口ごもる彼女――ナマエに声をかけようとして。

「ひゃっはー☆」

バカでかい音量の声と共に、見知った顔が姿を現す。
ブラック☆スター。どこへ行き何をしていたのかは全く見当も付かないが、特に興味もないのでその登場に軽くため息をついた。

「……………」

そのときナマエが何か呟いた気がしたが、聞こえなかったので気付かないふりをする。

「もう授業終わるぜー!早く行かないとマカチョップされるぞ」

一丁前に時間の感覚はあるらしく、こちらの気も知らず忠告をしてきた。
そこまで言って、ブラック☆スターの視線がナマエへとうつる。

「誰だ?ソウルの知り合いか?」

いつの間にか、ナマエの足元にいたはずのノイズの姿が見えない。
どこに行ったのだろうと辺りを見渡すと、公園の入口から尻尾を揺らしながら出て行こうとしていた。

「ナマエだよ。あなたは?」

「俺様はブラック☆スター!神を超越する存在だ」

「へぇ。ブラック☆スターは"職人"なんだね」

「おうよ!!すぐに超一流の職人になるんだ俺は!」

ナマエは、そっか、と呟くと足元に猫がいないことに気付いたのかくるりと後ろを振り返った。

「じゃあバイバイ!ソウルにブラック☆スター!」

ノイズー!と叫びながら走るナマエと共に、彼女の着ている白いコートが揺れる。
猫が曲がった道とは逆の方向にナマエが曲がったのを見て、苦笑いを浮かべるしかなかった。

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