「お前の目的は、一体なんだ……?」

攻撃をしてこないナマエを見て、フリーが恐る恐る問う。
その不気味なほど暗闇に染まる鎌は、手に握られたまま動く気配は無かった。

「……私、魔女は嫌いなんだ」

じろり、とナマエの視線がフリーの後ろにいるエルカへとうつる。
ゲコ、と鳴らしたつもりの喉は、張り付いたように機能しない。

「…ど、どうして?」

「魔女は私を殺そうとするの。だから、嫌い」

言うが早いが、ナマエが動く。
エルカは動けなかった。というより、ナマエの動きを追えていない。
狂気と恐怖で麻痺しかけているエルカの思考は、目の前からナマエが消えたことを認識してくれない。
しかし――フリーは違った。
エルカとナマエの間に無理矢理身体を捻じ入れ、意識を自分へ向けさせる。
ナマエは、フリーの思惑通り意識をエルカからフリーへうつした。
ぐん、と鎌の矛先が変わる。
最早、デタラメな回避を許さない攻撃。
小刻みに足を使い、避けながら―――しかし、一撃ごとにナマエの攻撃も、勢いを増していく。
エルカにはどちらの動きも目で追えていなかったが、突然背後から聞えた足音には反応が出来た。
微かなものだ。まだ遠い。

「(あいつらが―――!?)」

エルカが後ろを気にしたことで、フリーの意識も一瞬だけそちらへ向く。
そもそも彼は狼男だ。耳だって人よりは断然良い。
だから、意識をそちらへ向けたというよりは――向いてしまったのだ。無意識のうちに。
それが迂闊な行為であり、してはいけない行動だとフリーはわかっていた。それでも、本能には逆らえない。
ナマエが、吼える。

「――――魂の共鳴!!」

途端、ナマエが持つ鎌が光り、奇怪な風が吹き荒れた。
まるでナマエの魂に応えるように、その風はフリーの身体を捕らえ、全てを巻き上げる竜巻のごとくフリーをぶん回した。
そして宙に浮いたまま抵抗出来ないフリーを、振り投げたのである。

「があっ………!!!!」

衝撃が、フリーの全身に走る。
満足に受け身も取れないフリーは二度三度と地面へ激突し、その止まることを知らない勢いは、太い一本の柱にぶつかって、止まった。
フリーの口から空気が絞り出され、その圧搾に呼吸が停止する。
苦しそうに呼吸をし、それでもやはり不死身というべきか―――ほんの数秒で、フリーは立ち上がった。

「…………くそが」

完全に、フリーはキレていた。
ここまで手も足も出ないナマエという存在に、不死身であるフリーは苛立ちを覚えたのだ。
不死身であるのだから、ナマエもフリーに対し手も足も出ないのは同じことだ。だというのに、フリーは"一方的だ"と地面へ唾を吐く。
だが、無謀に突っ込んでいくほど無知でもない。
フリーはその苛立ちを冷静さで包み込むように、息一つ切らしていないナマエを睨み付けた。
だが、彼らの攻防がもう一度行われる前に――先ほど耳にした足音が、すぐそこまでやって来る。

「黒血を寄越せ!」

そう叫びながら現れた少年二人。
ナマエを含めた全員が、そちらを向く。
一気に視線を集めた少年は、再び言葉を発しようとする。

「黒血は、どこに!…――――ナマエ?」

キョロキョロと辺りを見渡す少年――ブラック☆スターは、視界の中に自身を見つめるナマエの姿を捉えた。
手にしている武器。魔女及び狼男と対峙する、公園で知り合った少女。
今のこの場の状況を知らないブラック☆スターは、瞬時に頭の中で状況を、自分の良いように解釈した。
――名を呼んだナマエが自身の声に応えないというのに。

「なんだ、ナマエもコイツらを倒しに来たのか、じゃあ……」

「ブラック☆スター!!」

カキン、と目の前で金属音が鳴ったのを、ブラック☆スターは遠く聞いた。
自分の名を呼んだのは、ここまで共に来たキッドだったか。
意識をそちらに向けてみれば、腕をクロスさせて銃で鎌の先を抑えているキッドと、冷たい目でこちらを見下ろすナマエの姿。
何が起きているのかわからないブラック☆スターは、ただただナマエを見上げることしか出来ない。

「ナマエ、な、何を……」

「ブラック☆スター、騙されるな。彼女はあいつらの味方でも、俺達の味方でもなんでもない」

ナマエを除いてただ1人、死神の息子であるキッドだけはいたって冷静であった。
だからこそ咄嗟にブラック☆スターの前に出て、ナマエの攻撃を防げたのである。
そう―――"攻撃"。
ナマエが手にした鎌の切っ先は確実にブラック☆スターを殺しにきており、キッドはその刃を銃身で受け止めたにすぎない。
ナマエとキッドの視線がぶつかっていたが、ナマエは何も言わずに元の場所へと跳躍する。
まるで―――

「彼女は、此処に居る俺達全員の敵だ」

―――鬼神を守るかのように。

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