(死神)
「ケーキが食べれると聞いて」
「ナマエちゃんまで私にたかりに来ないでよね〜」
「私までって…他にも誰かいるの?」
「さっきブラック☆スターくんが来てプレゼントくれって飛び蹴りしてきたのよ。まあ死神チョップをプレゼントしてあげたんだけど」
「あはは……」
乾いた笑いをこぼし、ナマエは死神の大きな手に視線を落とす。
まさか飛び蹴りをしていない自分まで死神チョップをプレゼントされるのだろうか、と警戒しながら。
「ていうか私、別にたかりに来たわけじゃないんだけど…。スピリットが『ケーキなら死神様に貰え!』っていうから」
「どうせスピリット君にもたかって面倒がられたんでしょ」
「うわなに、死神ってエスパーなの?」
「図星なのね…」
はあ、と呆れたように死神は溜息をついた。
今年はクリスマスパーティのようなものを開く予定も無かったし息子は息子で同年代の生徒達とパーティだかをしているのだろうし。
自分は普段通り過ごそうかと考えていたので、ケーキも料理も用意していないのだ。
「じゃあ、お金貨してあげるから買ってきなさい」
「えー面倒」
「わがままな子だね…シュタイン君にでも頼んで買ってきてもらおうか」
「あのサディスト、ケーキに何入れるかわかったもんじゃないからやめて」
「じゃあどうしろっていうのよ」
「ケーキ買ってきてよ」
「死神をパシろうとするのは君くらいだよねえ……」
はあ、と再び溜息をつく。
死神である自分が下手に外をうろつけないことは、彼女自身もわかっているはずなのだから本気で言っているわけではないとわかっているものの、どうしたものかと頭を抱える。
いっそ彼女にも死神チョップをプレゼントしてご帰宅願おうか。というか、彼女はキッド達とパーティなるものをしないのだろうか。
「マカちゃん達と食事会とかしたりしないの?」
「あー、誘われたんだけど、ね」
なんだか歯切れが悪い。
「言いたく無いなら別にいいけど」
「え、ううん。別にたいしたことじゃないよ。その…大勢でわいわいやるのって、あんまりしたこと無いから。つい断っちゃったんだ」
「なるほどね」
そういうと、死神はくるりとナマエに背を向けて鏡へと向き直る。
何をするつもりだろう、とナマエは死神の後から少しだけ顔を傾けてその光景を見ていた。
「あ、どもー。ケーキ屋さん?配達とかってしてる?」
『し、死神様!配達ですか?死神様の頼みでしたらどうぞどうぞ!!この店で一番良いものを持っていきます!』
「あ、いやそこまでしなくても……行っちゃった」
「……………………」
鏡をまるでテレビ電話のように使用する死神に、ナマエは唖然とその様子を見つめている。
鏡の中に写っているのは死神とナマエではなく、街一番のケーキ屋の室内。
その室内で、パティシエであろう男が慌しく駆け回っていた。
「そ、そんなことも出来るんだ…」
「プライバシーとかもあるだろうしあんまりしないんだけどねえ」
「っていうか、ケーキって……」
「食べたいんでしょう?いいじゃない、今日くらい」
さあ座って座って、と死神はナマエをソファへと誘導する。
いつの間にか鏡での通信は切れたのか、鏡の中には死神とナマエがうつし出されていた。
「メリークリスマス、ナマエちゃん」
ケーキと鏡と死神と
(ケーキ大きいねえ……)
(美味しそうだけど食べきれる気がしない…)
(シュタイン君も呼ぼうか)
(何それ新手の嫌がらせ?)