(シュタイン)
「にしし。ナマエ!トリックオアトリート!」
死武専の廊下で突然声をかけられ振り返れば、そこにはドラキュラに仮装したブラック☆スターが立っていた。
「ああ、うん。えっとお菓子は……」
がさごそ、と自身の鞄を漁り、お菓子を取り出した瞬間。
「えっ!?」
「ゲット!」
「ナイスソウル!」
一瞬で持っていたお菓子の袋がなくなり、目の前には喜んでいるソウルとブラック☆スターの姿が。
何が起こったのか理解出来ていないナマエは、驚いたように2人を見つめるだけ。
と、狼男に仮装しているソウルがニヤ、とこちらへ笑みを浮べた。
「これでナマエは、オレ達にお菓子をあげれなくなったわけだ」
「えっ…いや、それ私のお菓子だから…ソウルが持ってるなら、あげたことにならないの?」
「あー、えっと……な、ならねぇ!」
「そうなの?」
「ああ。これはおれが貰ったわけじゃなくて奪っただけだからな」
苦し紛れの言い返しに、ナマエはどうしようかと考える。
苦し紛れとはいえソウルにそういわれてしまえば、どうにも覆せる物ではない。
どうしたものかと、ソウルが持つお菓子を睨んだ。
「だから、オレ達はナマエに今から誰に止められることもなくイタズラできるってわけ!」
「でも、その前に私がお菓子を取り返してブラック☆スター達にあげれば大丈夫だよね?」
「それが出来るのならな!」
「よーしっ」
どちらも逃げるべき立場で、どちらも追いかける鬼の立場。
ややこしい鬼ごっこであるが、ソウルとブラック☆スターにとっては別にどちらでも構わなかった。
「何してんの?保健室のまん前で君達は…」
「イタズラ」
「鬼ごっこ」
「まあなんでもいいけどねー」
保健室の扉を開けて出てきたシュタインに、ブラック☆スターとナマエが答える。
あまり質問の答えは気にしていないのか、その頭のネジをギコギコと回しながら椅子から立ち上がった。
「じゃ、ナマエ!オレ達はイタズラの準備してっからな!」
「あ、っちょ、待っ……!?」
その場から走り去る2人を追いかけようと地面を蹴ったナマエだったが、腕を誰かに掴まれ停止する。
そして誰かといっても、この場にナマエ以外にはもう1人しかいない。
保健医であり職人である、シュタインだった。
「な、何」
「トリックオアトリート」
「え?」
「別にオレは仮装しなくても仮装みたいなもんでしょーが。だから、トリックオアトリート」
若干自虐のようなことを話しつつ、シュタインは眼鏡を光らせながらナマエの腕を掴んだまま歩み寄る。
ナマエは自分のおかれた状況に気付き、焦り出した。
「え、あ、いや…その、お菓子、は……ソウルたちが持って、て…」
「ふうん…?じゃあ今は持ってないわけだ」
「だ、だから2人から奪い返したら…その、」
「今は持って無いのね」
背中に腕を回され、ナマエの冷や汗は留まる事を知らない。
そしてシュタインは、ニヤリと上げれるだけ口端をあげる。
彼ら2人にイタズラをされていたほうがマシだった、とナマエは即座に後悔した。
ハロウィンの攻防
(さーて、どんなイタズラからしようかな…)
(あとでお菓子いっぱいあげるから!)
(んー?いやでもオレ、お菓子とかあんまり好きじゃないし)
(…………っ!!!)