ナマエの挑発とともに、フリーが踏み込んだ。
体格の良い大男ではあったが、そのスピードはマカや椿では目で追えぬほどのもの。
しかしナマエも、ただ挑発しただけで行動を起こさなかったわけではなかった。
鎌の重さを最大限に活かし、振り下ろすエネルギーそのものを前進のベクトルへとする体重移動をして。
ナマエもまた、地面を蹴った。

「か、は……っ!」

背中に灼熱が走るのを、フリーは感じた。
それでも大した傷ではないと、フリーは再び体制を立て直す。
不死身である自分の身体に深々とつけられた斬り傷はみるみるうちに消えてなくなり、斬られた痛みさえも忘れさせてくれた。
だが、それでも。
ぞん、と刃が走った。

「っ―――!」

それを紙一重でかわし、フリーの足はそのまま攻撃のためのベクトルを形成し、地面からフリーの膝、膝から腰、腰から螺旋を描いて、フリーの腕へと伝わる。

「ウールッフウルブスウルフウルブス!!」

勢い良く、その腕をナマエへとぶつけにいく。
その一撃が、魔法の生成と共にナマエの腹部へと到達する瞬間だった。
鎌が、振り戻る。
信じ難い角度を描き、正確に喉笛を狙い。
いくら不死身であろうと、フリーは捨て身の覚悟でその攻撃に当たろうとは思わなかった。
バランスも次の手も何も考える間もなく、頬を斬られながらフリーは不様に地面へと転がった。
しかし―――それで終わりではなかったのだ。

「(こ、いつ――――!)」

フリーを苦しませた、三連撃すらフェイク。
勢いをつけた最後の一撃こそが、ナマエの本命。
先ほどの魂威だけなら、今のフリーでも避けられるであろう。
マカやブラック☆スターの攻撃であったのならば、避けられたであろう。
いかな不死身であるフリーであれ、この攻撃を食らっても平気だという絶対の確信はなかった。
あの魔婆と呼ばれる魔女でさえ殺せなかった自分を、コイツならば殺してしまうのではないかと―――フリーは、生を諦めた。
それほどまでに、受け流すことも回避することも不可能な、絶対的連携技。

「く、っそっ………!!」

鈍い音と、ほとばしる鮮血。
確実に首を飛ばしにきているナマエに対し、フリーは両手をくれてやった。
それは常人であればかなりの痛手ではあったが、この狼男は違う。
不死身の彼にとって、そんなことはどうでもいいことであった。

「両腕―――ね。不死にとっては痛手無しか」

「………………」

そうは言うが、フリーは実際のところ、精神的な何かで焦燥していた。
死なない筈の自分が強制的に体感させられた死という概念。
外的傷害は無いものの、フリーは自分が無事かどうかすらあやふやになってしまうほど、目の前のナマエという存在に混乱していた。
そして、ナマエの存在に動揺していたのはフリーだけではない。

「なに……あの子、」

あれだけの動きをして息1つきれていないナマエを見て、マカは信じられないものを見るような表情で食い入るようにナマエを見る。
そんなマカは、武器になっている椿を握り締めたまま、地面に足を縫い付けられたかのように動けなかった。
ナマエの戦い方を見て、言葉が出なかった。頭が働かなかった。もし手に持っているものが友人でなければ、そのまま地面に落としているところだった。
ナマエの行為は、マカの精神を知らず知らずに暗闇へと沈めていく。
さきほどの灼熱を思い出し、マカは椿を握る手に力をこめた。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -