ジャスティン・ロウは1人だった。
死武専生になったときも。あるいは、そのずっと前から。
彼はそれを嘆いてなどいなかった。もしくは、彼は1人ではなかった。
彼の心にはいつも神がいた。崇拝すべき、自分に道を与えてくれる存在が。
実際に目にしたのは入学して間もない頃だった。死神と呼ばれるそれは、紛れも無く神だった。
彼は大いに喜んだ。神は心の中にずっといたが、こうして前にするとまた違った感動が彼の中に生まれたのだ。

――――このカミサマに、自分のスベテを委ねよう。


「魔女だ!」



責めたてるような声音。
その罪を許さないとでもいうような響き。


「魔女を狩れ!」



その声に、彼は応えた。
重たい刃が滑り落ちる。
血がしぶき、断たれた首は地面に転がる。

―――ギロチン。

痛み無く人の命を断つと言われた、人道的な処刑機械。
魔女だけではない。
何人も。何人も何人も何人も何人も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も幾度でもその刃は持ち上げられ、振り下ろされる。
魔女が、悪人が、もしかしたら善人だったかもしれない名も知らぬ人間が、その首を地面に転がしていく。


―――これは神が望んだことなのだ。


「ならば、この気持ちは誰が望んだものなんでしょう」

ジャスティンは振り返る。
目の前の大きく丸い――そして黒い球体を背にして、ジャスティンはゆっくりと笑みを浮かべた。

「ねえ、ナマエさん」

ナマエと呼ばれた少女は、チェーンソーを持ちながらぼんやりとジャスティンを視界に入れていた。
決してジャスティンを見ているわけではない。彼を意識しているわけでもない。ただただ彼女の視界の範囲内に入っているだけで、ナマエにとって、ジャスティンは"そのくらいの存在"だった。
しかし―――本当にそうだとしたら、わざわざジャスティンの目の前に現れるだろうか?
答えは、誰にもわからない。

「私はあなたが欲しい。それが"あなた自身"でも"あなたの魂"でも、私にとってはどちらでもいい…わかるでしょう?」

じろり、とナマエの目がジャスティンをとらえた。
今度は"視界に入っている"という程度のものではない。
しっかりと"ジャスティン・ロウ"という存在を認識し、その言葉を理解しようとしている。

「私はあなたと一つになりたい」

ジャスティンはその手をナマエへ差し出す。と、いうよりは伸ばしたというべきか。
ナマエはその手というよりも"ジャスティン・ロウ"という存在を見つめていた。

「私は………わからない」

首を横に振るでも、ジャスティンの言葉を否定するでもない。
項垂れるように一度、頭を動かした。

「死神をどうするか。鬼神をどうするか。ブラック☆スターを殺すのか、それとも守ってもらうのか。キッドを殺すつもりはないし、ソウルやスピリットと戦うつもりなんかない。テスカを殺してシュタインを殺して―――それで世界は終われるの?」

「……………………」

「ジャスティン。あなたはどうして私を求めるの?…わかってるんでしょう?」

ジャスティンは、伸ばしていた手をゆっくりと降ろした。
しかし口元には笑みを携えたまま、やはり"その目"でナマエを見つめる。
大切なものを、愛しいものを見るようなその目。
ナマエは困惑した。今回が初めてではないその視線に、慣れていなくとも動揺する必要はないはずだ。
だのに、この期に及んでそんな態度を取るジャスティンに、ナマエは自分の唇を軽く噛む。

「………ナマエさんに私は殺せませんよ」

ジャスティンは、再び後ろの黒い玉を振り返った。

「『黒血』です」

その瞳に黒い玉を映し出し、ジャスティンは説明を続ける。

「鬼神様は全身の血を抜かれて封印されていました。そこに魔女メデューサが造った『黒血』が注入され、封印は解かれた。それで同じ『黒血』を持つ鬼神様はこの黒球に反応したのでしょう」

ジャスティンは顔だけを横に向け、ナマエへ視線を流す。
いつもナマエに向ける笑みではない。それは、狂気と信仰が入り混じった笑み。

「処刑しておきたい…」

シュッ、とジャスティンは自身の首元で手を横に振り、その首を跳ねる様子を揶揄した。


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