「待て。そんな手伝うと言っても…」
シドは自身を跳び越え、シュタインの隣に降り立ったテスカの背中へ手を伸ばす。
――――危険すぎる。
それは、どのコンビにも言えることだ。
マリーは辞退した。それは良い。しかし、他の武器がシュタインと共に戦えば、それは同じことだ。何も変わってなどいない。
状況は最悪だ。気分は最低だ。
彼女にとって魂など、誰だろうと関係ない。
「まあそう慌てるなよ。死ぬ前はそういう男だっただろ?」
「……………………」
テスカとは生前それほど関わったことは無いと、シドは口を噤む。
「俺はシュタインを手伝うとは言ったが、共鳴するとは言ってないぞ?」
「え?い、いやしかしそれでは」
一体どうやって。
「忘れてもらっちゃ困るが、俺はデスサイズの1人なんだぜ!」
先に動いたのは、テスカ・トリポカ。
今は夜。雲1つないとはいえ、日の出ている朝よりは十分に分が悪い。
されどデスサイズ。そんなことで、圧倒的不利になることなど有り得ない。
「!」
ガキン、とテスカとギリコがぶつかり合う。
その際に火花が散るが、両者とも怯むことは無い。
瞬間、ナマエはテスカを押し返し、その場から少し離れた場所へと跳躍する。
今にも舌打ちをしそうなシュタインが、ナマエが今まで立って居た場所を見下ろしていた。
「………………………」
"やり辛い"、とナマエはチェーンソーであるギリコを握る手に力を込める。
この武器ではどうしても動きが大きなものになり、小回りが利かないのだ。
そんな武器を振り回しているときに、近付かれるのはかなり厄介である。
そして勿論彼ら2人はそれをわかっていて、間合いを詰める戦い方をしてくる。
かといってあまり距離を取った戦い方をしても、そこはまだ"テスカ"の射程範囲内だ。
ノイズがいれば、とこの場にいないパートナーを思い浮かべ、ナマエは首を横に振る。
「…………………………」
2人の攻撃を避け、隙を見て攻撃しながらナマエは唇を軽く噛んだ。
思い出せ。思い出せ。
"これ"は―――"彼"はどうやって戦っていた?
彼はただの"武器"ではない。魔武器だ。"何かあるはず"だ。
「っ、」
ぴりぴりと空気が震える。
テスカは"鏡"だ。本体自体にそれほどの攻撃力はない。
だとしても、その光の反射と屈折を利用した翻弄と誘導にはナマエも苦戦を強いられる。
そして更に、卓越した身体能力を持つシュタインの隙のない攻撃。
いくらチェーンソーであるギリコが強力な魔武器だとはいえ、小柄なナマエにはそれを完璧には使いこなせていない。
「どうした?防ぐのが精一杯か?」
「、うるさい」
シュタインは今まで―――本気では無かったのだ。
あの狂気に押しやられた夜のそれに近い今に、マリーは言葉を失う。
シドも、手出しは出来ないと黙ってみていることしか出来なかった。
そして、共に戦うはあの夜とは違うデスサイズ――――それでもその称号は伊達ではない。
テスカの"残像"がナマエに斬り捨てられ。その大きく振った隙に、シュタインの拳が入った―――かのように思えた。
「…チッ、」
間一髪。ナマエはチェーンソーを振った勢いに任せ、デタラメにシュタインに攻撃を避ける。
勿論その後攻撃に繋げることが出来る体勢ではない。
今テスカに攻撃されたら避けられないだろう―――しかし、テスカはその大きな被り物の奥でじっとナマエを見つめるだけだった。