次の日もあるということで観光も駅の付近で終わらせ、今はロッカーに預けた荷物を引き取ったあとホテルにチェックインしたところだった。
夕食は和葉を含めた3人でとるつもりだったので店を予約してあるが、そういえば1人減ったことを連絡しておかないといけないな、と携帯を取り出す。
荷物を部屋に置いてくると言った彼女をホテルのロビーで待っていたが、まだ来ないだろうと今日ほぼ開いていなかった携帯を開いた。

「うおっ……」

見たことのない通知の数に、思わず声が零れる。
慌てて口を押さえたが、周りにそれを不審に思うほど人がおらず、少しキョロキョロと辺りを見渡した後、見間違いだろうかと画面に目線を落とした。

「なんやねんこれ…」

半分呆れのような言葉が漏れる。
和葉からの着信にメール。それはまあ、わからなくもない。
彼女と和葉も勿論連絡先を交換しており、何が通じるのかわからないがかなり意気投合しているよう。だからこそ今日来れなかった分連絡を入れているのだろうが、それは自分ではなく彼女にするべきだろうと適当にメールの内容を眺めていく。
なまえさんとは無事に合流できたのかだの、どこへ行くのかなど、そんな質問ばかり。
最終的に痺れを切らしたのだろう、時刻を見るとメールが途切れた30分後に何通か電話をしてきている。

「(まあ、こっちはええわ…)」

問題は、と別のフォルダに分けられた『江戸川コナン』からのメールだ。
和葉はまあ、ちゃんと自分が考えた店にも行っているかの確認をしたかったというのもあって、連絡してくることはわかる。
だが彼に限っては彼女から無事に京都駅に着いて自分と合流している旨が連絡されているだろうし(自分が席を立ったときに携帯を触っていたらしいのを確認している)、事件でもない限りそれほど連絡を寄越してくるタイプではない。
それなのになんだこのメールと着信の数は、と溜息をつきそうになった。

「ごめん、お待たせ」

「あ、ああ…。そんな待ってへんし大丈夫やで」

荷物を置いてきたらしい彼女は、項垂れていた自分を心配そうに見下ろしながら手を振ってくる。
彼らへの返事をどうしたものかと考えたが、それよりも今は予約していた店に連絡だ、とロビーのソファから立ち上がり携帯に視線を戻した。

「ほな、ちょっと予約しとった店に人数変更の連絡してええか?」

「あ、そうか。ありがとう服部くん。でもその前にちょっといいかな」

「……?どないしたん?」

携帯を指差しながら問うと、彼女は笑みを浮かべて頷いたあと、そんな自分を制する。
何かと思い首を傾げ、「あのね」という彼女の言葉の続きを待った。
―――しかし。

「あー!なまえさんだ!!」

「え!?」

聞き覚えのある"子供っぽい声"に、驚きの声をあげたのは、自身の名を呼ばれたなまえさんだった。
と言っても、勿論自分もその"聞こえるはずのない声"に、顔には出さずとも驚いている。
しかし、彼女が状況を理解する前にその小さな足音はこちらへ駆け寄り、あろうことか彼女の手を掴んだのである。

「会えて良かった!携帯に連絡したんだけど、返事が無かったから」

「ご、ごめんね…携帯見てなくて。っていうより、コナンくんどうして…」

「小五郎のおじさんの依頼人がこのホテルのオーナーさんで、事件を解決したお礼にここまで送って貰ったんだ!」

「送って貰った、って……」

彼女も自分も、目の前の"子供"の言葉に絶句しているが、目の前に彼が存在していることは現実だ。
―――江戸川コナン。
先ほどまで自分を悩ませていた東京にいるはずのメールの差出人が、今こうして目の前にいる。
ということは、勿論。

「服部くん。なまえさん!」

「蘭ちゃん…それに毛利さんも」

「いやあ遅くなってしまい申し訳ありません!私の華麗な推理が少しばかり長引いてしまいまして」

"毛利様ご一行"がようやくのお出ましか、と2人に軽く会釈をしたあと、足元からの視線に気付きそちらを向く。
未だに彼女の手を掴んだままの"コナンくん"と目が合い、眉間に皺を寄せた。

「蘭ちゃん!なまえさん!」

「なっ!?」

聞き覚えのある新たなる登場人物の声に、今度は自分が驚きの声をあげる。
そちらを見なくともわかる、"幼馴染"の声。
遠山和葉。この場にいないはずの"6人目"が現れ、どんな因果かこの夜に予定の人物が出揃った。

「和葉、お前強化合宿だったんとちがうか」

「東京の友達が来てる言うたら『はよ言え』怒られて帰されたわ」

「なんやねんそれ」

「そんなことより平次、なまえさんに変なことしてへんやろな!」

「変なことってなんやねん!ふっつーに観光しとったわ!!」

ならなんで連絡寄越さんの、という幼馴染の怒りの声音に、ぐ、と言葉に詰まる。
しかしすかさず「ごめんね和葉ちゃん、観光が楽しくて携帯見るの忘れちゃってて」という彼女のフォローが入り、和葉は照れながら自分が考えた観光ルートを楽しんで貰えたことを喜んでいた。

「なにデレデレしとんねん」

「してへんわ!」

どうやら幼馴染の地獄耳は健在のようで、ボソッと呟いた嫌味をバッチリ拾っていたらしく、後頭部を叩かれる。
その遠慮無い攻撃に後頭部を抑えながらその場に蹲れば、視線の高さが同じになった"コナンくん"と目が合った。

「なんやえらいなまえさんにくっついとんな。はよ離れや」

「服部、おまえなまえさんに変なことしてねぇだろうな」

「なんやねん揃いも揃って。してへんわ!」

そもそも"変なこと"ってなんだ、と怒りに任せて彼へツッコミを入れる。
そのこちらを訝しむような目線をやめろといった意味で同じような視線を返すが、彼には全く効果がないようだった。
なまえさんは他の3人との再会を喜んでいるようでこちらには気を向けていない。
訊くなら今か、と彼に再び視線を戻す。

「ちゅうか、なんやねんあの連絡の数。なんかあったんか?」

「1回も連絡が無かったから"なんかあった"のかと思ったんだよ」

「だとしてもあんな回数連絡する……」

「……?どうかしたか?」

か、と口にしようとし、その言葉は紡がれないまま、自分のよく回る頭が勝手に過去を思い出した。
不思議そうにこちらを見上げる彼には悪いが、今、平常心でこの話題を続けられそうにはない。
怪盗キッドの事件に彼女が巻き込まれていると知った夜、散々目の前の彼に連絡を入れた自分を思い出してしまったのだ。


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