見慣れた道を、いつもとは違うメンバーで歩いて行く。
隣には名字。先ほどの提案を二つ返事で了承した彼女は、確かに自分の提案に驚いてはいたものの、特に自分と帰ることに抵抗はないようだった。
隣を歩く彼女は、思っていたよりも背がある。しかし足の速さはやはりそれほどないようで、自分は自然と彼女の歩幅にあわせていた。

「…………………………」

いつもなら出てくるはずの会話の数々も、何故か上手く出てこない。
名字もこちらの出方を伺っているのか、沈黙が苦ではないのか、口を開く気配はなかった。

「あのさ、名字」

「なに?五十嵐くん」

そうやって名前を呼ばれることすら、最近になってようやくな気がする。
言おうかどうか悩んでいたが、この機会を逃したらもうないだろうと言葉を続けた。

「前までは俺と距離、とってたよな?」

「え?」

「え?って…まさか、俺が気付いてないと思ってたのか?」

その反応をするということは、距離を取られていたというのは気のせいでもなんでもなく、本当のことなのだろう。
名字はわかりやすく驚いたような表情を浮かべた。
その後、少し気まずそうに俺から視線を逸らすと進むべき道を見つめる。

「それに気付いてたのに、私と帰ろうと?」

「ああ。そこらへんは、俺もわからないんだけどさ」

それは本当だった。どうしてこうやって今名字と帰っていて、会話を続けようとしているのか。
そして何故こうも上手く言葉が出てこないのか、玄関からここまで彼女の方を見られないのか。

「というか、私と一緒に帰って良かったの?」

「……?どういうことだ?」

「芹沼さん。好きなんでしょ?」

「!」

足が、無意識のうちに止まっていた。
数歩先で、名字も立ち止まってこちらを振り返ったのがわかる。
そして、そういうことかと溜息をつきたくなった。
名字に最初に挨拶をし、仲良くしようとしたときの下心を彼女は見抜いていたのだろう。
それでいて、それに応える気はないといった意味で距離をとっていたのだ。
そうでもしないと、つい最近までの芹沼に対する自分のように、多少強引にでも"仲良く"なろうとしていたはずだ。
それを―――初対面のあの状況で、既に名字なまえは見抜いていた。
だから距離を取っていたし、俺に好きな奴ができた途端、距離を取るのをやめた。
俺が他の誰かを好きならば、距離を取らなくとも自分に気持ちが向くことはないと考えたのだろう。
彼女なりの防衛の仕方だ。恐らく、それをしているのは俺に限った話じゃない。
"そういう関係"になりそうになる前に、彼女はそうやって防衛している。
思っていた通り賢い奴だ、と自分とは違う方向に計算高い彼女の綺麗な黒い瞳を見つめる。

「あはは……ははは!」

「?」

なんだか可笑しくて、俺は声を出して笑っていた。
目の前の名字はそんな俺を不思議そうに見ていたが、俺は満面の笑みを浮かべると大きく足を一歩踏み出す。
驚いた彼女は一瞬そんな俺に怯んだ気がしたが、もう遅い。

「距離を取るのをやめたのは失敗だったな」

「ちょっ、五十嵐くん!?」

彼女の手を離さないように握り、強引に引っぱり隣を歩かせる。
どうやら自分の"好きな人"は、名字が言う人物ではなかったらしい。
失敗。不正解。そして、これから彼女がまず最初にするのはそれらに対する後悔だろう。
だとしても知ったことでは無い。俺の恋心はこんなものではとまらない。

「どうやら違うみたいだ」

「何の話!?あと、手!足も速いし、」

「俺が好きなのはお前だよ!きっと、ずっと前からそうだったんだ!」

気付かせてくれてありがとう、ともう距離を取れなくなった彼女へ全力で笑みを向けた。

クラスの人気者が恋心に気付くまで




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