01
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シュニは、バス乗り場に並ぶ列の最後尾でバスが来るのを待っていた。
カイトから受け取った自分の鞄をしっかりと持ち、ジンからもらったメッセージを頭の中で繰り返す。
周りの人はどうやら団体で来ている人が多いようで、バスを待っている間ぺちゃくちゃと話していた。

「……………………」

ゆらり、とシュニの身体が動いた瞬間。
ププーッ、というクラクションと共に、シュニの横にゆっくりとバスが停止した。
シュニは何事も無かったかのように姿勢を正し、列が動くのを待つ。
列に人があまりいなかったのに加え、バスの中は思ったよりも広かったのでシュニは誰も座ろうとしない前の方の席に静かに座った。

「……………………」

電源の入っていない携帯電話を気にするように、シュニの手がポケットを撫でる。
しかしそれを取り出そうとはせず、シュニはその手を膝の上に乗せた。

『皆様、本日は号泣観光バスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。早速ですがデントラ地区が生んだ暗殺一族の紹介をしていきましょう』

すぐ近くで、女のバスガイドが営業スマイルを浮かべて軽快に喋り始める。
このバスの予約や支払いもシュニが自分1人だけでやったことで、作業をもたついていたシュニを見かねたカイトやジンがそれを手伝おうとしたのも断ったのだ。
それは第一に、行き先を知られたくないということではあったが、こういったことにも慣れておいたほうがいいのだろうと教えてくれようとした二人に感謝しながら頑張ったのである。

『えー、皆様。左手をご覧下さい』

その言葉に釣られ、乗客のほとんどがそちらに顔を向けた。

『あちらが悪名高いゾルディック家の棲む、ククルーマウンテンです。受戒に囲まれた標高3722mの死火山のどこかに彼らの屋敷があるといわれていますが、誰も見た者はいません』

生い茂る木々の奥にそびえる山は、深い霧と分厚い雲の影で一層不気味に見える。
それらに顔を青くする者と、そうでない者がいた。
青くする者はただの観光客だろう―――そうでない者は、その風格からして一般人ではないだろう。
シュニは、そのことにバスに乗る前から気付いていた。
だが気付いたところで特に何をするでもないので、自分も観光客のフリをして静かにしている。

『ゾルディック家は10人家族。曾祖父・祖父・祖母・父・母の下に5人の兄弟がいて、全員殺し屋です。では、ここでもう少し山に近付いてみることにしましょう』

そんなバスガイドの案内と共にバスは急なカーブを曲がり、しばらくしてから停止した。
バスガイドの『近くで見たい方はバスから降りて下さい』という声と共に、バスの中の乗客が恐る恐る地面に足をつける。
シュニは扉に最も近かったが、ある程度の人数が出てからそのあとをついていくようにバスから降りた。

「えー、ここが正門です。別名、黄泉の扉とよばれております。入ったら最後、生きて戻れないとの理由からです」

バスの中ではないからか、バスガイドは周りに聞こえるよう少し声を張って説明をし始める。
辺りは木ばかりで、これだけの人がいるというのに静寂に包まれているのでそこまで大声でなくとも聞こえるだろう、とシュニは目の前にそびえ立つ巨大な門を見上げた。


「中に入るには守衛室横にある小さな扉を使いますが、ここから咲きはゾルディック家の私有地となっておりますので見学できません」

ふと、先ほど見た不気味な山を思い出してシュニは首を傾げる。
この巨大な門の向こうに山があることは確かだが、ここからでは随分距離があるように思えたのだ。
そんなシュニの疑問を解決するように、「先ほど紹介した山ですが」とバスガイドは続ける。

「この門のはるか遠くにありますが、ここから先の樹海はもちろん、ククルーマウンテンも全てゾルディック家の敷地となります」

「(うわあ………)」

庭付き一戸建は庭掃除が大変だから嫌だと言っていた両手が無い家賊を思い出し、こんな敷地を見たらどう思うかだろうとシュニは唖然とバスガイドの解説を聞いていた。

「では、次の場所へと移動しますのでご乗車ください。すぐに。今すぐに!」

どうやら笑顔で解説しているバスガイドも暗殺一家は恐いらしく、乗客を急かすようにそう口にする。
ほとんどの客はガイドの言う通り逃げるようにバスの中へ入っていったが、シュニを含めた数人はバスに乗らずに門を見つめていた。

「ちょ、ちょっとお客様!バスを出しますので早く…」

「必要ねえよ」

恐がっていても乗客が全員乗るまでバスに乗らずに待っていたバスガイドが、痺れを切らしたようにシュニたちの背中に声をかける。
すると、いつの間にか手にデカイ刀を持った男が笑いながらバスガイドへ答えた。

「おれ達は暗殺一家に用があるんだ。こいつらの顔写真だけで一億の賞金がかかってるって話もある」

「そういうこった。ビビッてんならさっさと出しちゃっていいぜ。ガイドさん」

「案内ご苦労様」

そう言うと、男達は守衛室へと武器を持ったまま近付いて行く。
シュニはそんな彼らを見ながら、未だそこから動かないで居た。

「あ、あなたは!?あなたも残るの!?」

「あ…はい。残ります」

「そう!じゃあ早くバスを出してください!!」

バスガイドへ振り返りそう答えれば、バスガイドは焦ったように運転手へ軽く怒鳴りながらそう言う。
シュニはバスが後ろで出発する音を聞きながら、先ほどの小さな扉から中へ入っていく男達を見つめていた。



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