06
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「で?お前はなんで人を探してるんだ?」

「なんで…って。気になるの?」

「お前が食べてる間暇なんだよ。ったく、その身体でよくそんな食えるな……」

結局、カイト達はその街で食事をしていた。
人目を気にしてヒッソリとした店を選んだものの、こうもシュニが大量の食事を頼んでいては嫌でも目立つ。
こうなったらもうやけだと、カイトは眉間に皺を寄せたままシュニを睨みつけるように見つめた。

「なんか話すと困ることでもあるのか?だったら別にいい」

「私はただ頼まれただけだよ」

「頼まれた?」

「うん」

右手でコップを持ち上げストローでその中身を呑みながら、左手でポケットに入っていた携帯を取り出して軽く振る。
その携帯を通じて探し人の情報を得ている、ということを言いたいのだろう。
携帯を見たカイトがなるほどな、と小さく頷くとシュニはストローを口から離すことなく素早く携帯を再びポケットへと仕舞った。

「ふぅん。じゃあ、届け物、ってのも?」

「ううん。あれは私が届けてあげようって思ったから届けるだけ」

そうは言うが、シュニは手ぶらに近い。
一応財布などを入れる鞄を持っているものの、そんなに大きくも無いし椅子に座る際放り投げていたりもしたので大事に扱っている様子も無かった。

「じゃあお前、別に良い所のお嬢様ってわけじゃねぇのか」

「なにそれ。そうだと思ってたの?」

「お前みたいな世間知らずが遠出してるんだから、家出か何かと思っただけだ」

「世間知らず……って」

「本当のことだろ。電車の乗り方も地図の読み方も知らないなんて、箱入り娘だとしか思えなかったんだよ」

「どっちもちゃんと出来るようになったって」

「そうかい。じゃあこれで晴れて箱から出れるな」

カイトの皮肉にも反応せず、シュニはデザートの最後の一口を口にする。
今度は先に自分の分の金は払っておいたので、シュニは伝票を持っていくと財布から適当にお札を出してお釣りを貰っていた。

「そういえば師匠って言ってたけど、カイトが探してる人もハンターなの?」

「まあな。なんだ?お前、ハンターに興味でもあるのか?」

「あるよ」

シュニは即答だった。
今までの適当な返事ではなく、明確な意思を持ったそれに、カイトは一瞬だけ驚く。
その後真剣な顔で隣を歩くシュニをじっと見下ろし、再び前を向く。

「だったらもっと戦えるようになっておいた方がいいぞ」

「戦う?」

そう首を傾げたシュニに、ハンター試験で生き残れるような戦闘力があるようには思えなかった。

「それに知識だって必要だ。電車の乗り方や地図の読み方どころじゃなくて、もっと色々なことをな」

「はぁ……凄いんだね、ハンターって」

そう溜息交じりで呟いたシュニは、本当にハンターのことを何も知らないようである。
しかし、他人の事情にズカズカと土足で入り込むカイトでもない。
全面的にお前は無理だと否定せず、自分で考えろと差し伸べようとした手を引っ込めた。

「でもまさか箱入り娘がハンターとはな」

「だから箱入り娘じゃないってば」

「はいはい」

カイトがそう適当に流したことに特に何も思っていないらしく、シュニは相変わらず前を見ている。
最初からそうだった、とカイトは横目でシュニを見下ろした。
船ではこれでもかというくらいに酔っていて、海を泳いで渡った方がまだ楽なんじゃないかと呆れるレベルのただの小娘。
次に図々しく後ろをついてきて、地図も読めない、電車や船の仕組みがわからない、と世間知らずを恥じらいもなく暴露して。
最初の頃はシュニのことを知ろうとなど全く思わなかったが、そこまで意味のわからない存在だと逆に知りたくなる、と怖いもの見たさにも似た感情をカイトは少なからずシュニに抱いていた。

「(………………あれ?)」

自分の考えに、頭の隅で何かが引っかかる。

「(そもそもなんで、箱入り娘だと思ったんだ……?)」

「どうしたの?カイト」

ゆっくりとなった足並みは最後には止まってしまった。
そのことに気付いたシュニは不思議そうにカイトを振り返るが、カイトは下を向いて何かを真剣に考え込んでる。
シュニは一歩、カイトに近付こうとして。

「シュニ、お前……」

そしてカイトは思い出した。
船を降り、彼女と話していたときのこと。
あの一瞬の殺気を、カイトは思い出す。
ほんの一瞬だったが、確かにシュニを殺すという目的が、躊躇いも無く込められていた。
あれのせいで、自分は彼女を箱入り娘だと勘違いしていた。
しかし、彼女が箱入り娘でないとしたら――――あの殺気は一体。

「―――――――っ、」

しかしカイトはその疑問を口にすることが出来なかった。
目の前にいる少女は、ここまで一緒に歩いて来た少女、シュニである。
シュニであるはずなのだが―――カイトは、目の前に立っているのが一瞬誰なのか、何なのかがわからなかった。
頭の中の警戒音はフリーズしてしまったかのように、何の応答も無い。

「シュニ?」

確認するように、自然とシュニの名がカイトの口から零れ落ちた。



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