05
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「……身分証明書?」

シュニは、街に入る検査を待っている人で賑わっている室内を見て唖然とした。
この街はあまり大きい場所では無いが、各地の重要人物が訪れたりなどする場所なのである程度の身分の人間でしか入れないのである。
カイトは勿論そのことを知っていたらしく、唖然としているシュニを振り返って眉間に皺を寄せた。

「もしかして、持ってないのか?」

「あー……普段、持ち歩かないから」

シュニはカイトの質問に答えながらも、辺りをキョロキョロと見渡す。
盗みは得意ではないし、身分を偽るという行為をしたことが無いシュニにそんな高等技術が出来るわけもない。
どこからか侵入出来ないだろうかと、辺りの状況を探っているらしかった。
それに気付いたカイトが盛大に溜息をつき、小声で言葉を零す。

「ここの警備は厳重。この街に来るんだから入れる相応の身分の奴かと思ってたけど、証明書が無いんじゃな…」

「どうにかならない?」

「んなこと言われても……」

困ったような表情を浮かべるカイトに、シュニは少しだけ驚いた。
ここまで一緒に行動してたとはいえ、全て偶然が重なったものであるし、カイトに自分を助けるメリットが無い。
それなのに考える素振りを見せているカイトを見て、シュニはポケットから携帯電話を取り出した。

「……………………」

最終手段を使うしか無いか、とシュニは手にした携帯電話を見下ろす。
電源の入っていないそれを開いて、電源ボタンへと軽く触れた。

「………わかった。俺についてこい」

「え?」

「いいから。それと、何かを訊かれても何も言うな。わかったか?」

「う、うん……」

シュニが一度縦に首を振ったのを見て、カイトは背中を向けて歩き出す。
電源を入れようとしていた携帯電話を閉じ、再びポケットにしまってから慌ててカイトの後ろへついて行った。

「身分証明書を」

「ハンターだ。この国の生物調査をしている」

「!」

そう言ってカイトが受付の男に差し出したのは、ハンターの証であるハンターライセンス。
シュニ自身それを見たことはあったが、まさかカイトが持っているとは思っていなかったのでカイトの後ろで驚いたように一瞬だけ目を見開いた。

「……確かに。そちらは?」

受付の男はライセンスを受け取ると、機械に通してカイト本人のものであるということを確認したらしい。
ライセンスをカイトへ返し、次いで後ろにいるシュニへと視線を移した。

「コイツは弟子だ。確かこの街はハンター1人に対し1人だけ付添い人をつけることが出来たはずだな?」

「はい。そうですが…」

「知ってると思うが、ハンターは情報が漏洩するのを嫌う。俺自身の身分を知られるのも本当は嫌なんだ。………わかるだろ?」

「…………かしこまりました」

カイトの小声に少し考えたあと、受付の男は表情を曇らせたあと機械へ手を伸ばす。
その後数秒機械をいじっていたかと思うと、「どうぞ」と街へのゲートを開けた。

「行くぞ」

「………………」

シュニはカイトの後ろで静かに頷くと、受付の男を見るでもなくゲートをくぐりぬける。
くぐりぬけてから後ろを振り返れば、受付の男は別の人物の対応に追われているようだった。

「……えーっと…」

「…何か言いたいことがあんなら言え」

「いや。ハンターだったんだなって」

「まあな。でもまだちゃんとしたハンターってわけじゃない」

「え?」

街の中に入ってみても、お互いに感想は無い。
確かに建物や雰囲気は外とは打って変わっていたが、カイト達は観光が目的では無いのだ。

「……『師匠を探す』。それが俺に課せられた最後の課題だ。実際のハンター試験とは関係無いけどな」

「なるほど。『無責任でわがままでいい加減な性格な奴』……」

「それはあの人のことを周りがそう言ってるだけで、前にも言った通り俺にとって最高の人だ」

「そっか」

そうシュニが短く言った言葉が、適当に流したものでは無いということをカイトは気付く。
カイトの師匠に対する言葉をきちんと受け止めてくれたのだと、シュニに気付かれないよう軽く笑みを零した。

「なんで私を街に入れてくれたの?」

「旅は道連れって言うだろ」

「ふぅん。助かったよ。ありがとう」

「気にするな」

街は観光地としても有名であり、平日ではあったがそこそこ賑わっているようだった。
しかし所々に見る黒服の人間達を見ると、要人達もこの街に来ているんだなということを確認できる。
そんな街の状態を確認しつつも、カイトは先ほどのシュニの表情を思い出していた。

「(自分がどんな表情をしてたか、わかってないのか)」

携帯電話を取り出したあの表情。
あまりシュニの感情を顔から探ることは難しかったが、あのときだけは悟ることが出来た。
出来ればこの手段はとりたくなかったという、困惑の表情。
あんな表情を見たからこそ、カイトは自分の立場を利用した。

「さて、それじゃあとりあえず何を食べようかな」

「人を探せ人を」



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