01
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「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙………」

荒れ狂う海の上に浮かぶ船。
船員達は慌しくその対応に追われている。
そんな中、変な奇声を発する少女が1人。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙………」

「うっさい!静かにしてろ!!」

「でもぉぉぉ…あ゙あ゙あ゙」

場所は海上。
大海原の真ん中で、一隻の大きな木造の船が嵐に巻き込まれていた。
その船の甲板にいる黒髪の少女は一人、慌しく走り回る船員の邪魔にならないよう声を出している。
だがその死にそうな声が一番邪魔になっているのか、船員からの怒号が飛ぶ。
しかし少女にとってはそんなことを気にしている場合ではなかった。
少女――――狩襖シュニは、絶望的なほどに船酔いをしていた。

「おい」

「あ゙あ゙あ゙…」

「ったく、室内で大人しくしてれば良かっただろ!!」

近くに寄ってきた声に、シュニは気持ち悪そうに口を抑えながらもそちらを向く。
船内で見かけたことはあったかもしれないが、今はそんなことを思い出している余裕は無い。
室内で大人しくしていろとは船員の何人かにも言われたが、こうして風を受けていたほうがまだ幾分か楽だったのだ。
大嵐ではあったが、室内で壁に激突したりするよりはマシである。

「あー…くそ、この草でもかんでろ」

「い、いじめ……?」

「ちげぇよ!船酔いとかが楽になる植物だ!!」

男は左手で自分の帽子が飛ばないよう押さえていたが、それとは逆の手でシュニの目の前に数本の草を差し出した。
シュニは恐る恐るそれを受け取り、観察する。

「うっ……」

「早く噛め!!」

そのゆらゆらと揺れる草を見ていたら余計に気持ち悪くなったのか、シュニは慌てて男に貰った草を口に含んだ。
男は必死に草を噛むシュニをしばらく観察していたが、なんだか船酔いがうつりそうだったので黙って海を観察する。
男は人を運ぶのが目的ではないこの船に乗せてもらった代わりに船のことを手伝っていたが、シュニは船酔いでそれどころではないようだった。
そうでなければお前も手伝えと怒鳴ったかもしれないが、もしかしたら自分とは違ってお金を払って乗せてもらったのかもしれないと思考する。
その際、やはり気持ち悪そうにシュニが出している声が思考を邪魔した。

「ったく…………」

溜息を吐きたくなったのを、横からの視線が止める。
何事かと横を向いてみれば、先ほどの草を噛み締めているシュニが男の方をじっと見つめていた。
しばらく見詰め合っていたが、男は耐えられないとでもいうように眉間に皺を寄せて口を開く。

「何か用か?」

「ううう…ありがとう。随分、楽になった……」

「あとで種類を教えるから、これから船に乗るときは常備しとけ」

「うん……………」

今教えても船酔いのせいで覚えていられないだろうと男は先ほど止めた溜息の分も盛大に息を吐いた。
しかし随分楽になったというシュニの言葉は嘘ではないらしい。
その顔色は先程よりは色素を戻してきていて、唸り声のような声も出ていなかった。

「私はシュニ。助けてくれてありがとう」

「………カイトだ。礼は、無事に陸地に着けてからにしとけ」

男―――カイトは、それだけ言うと予備に持ってきていた草もシュニに渡して船員の仕事の手伝いをしにその場から離れる。
空を見上げてみても、嵐が収まる様子は無かった。



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