09
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「……おや。こんなところにいらしたんですか。シュニちゃん」

ノックもせず、その金髪の男はネテロの部屋へと扉を開けて入ってきた。
名前を呼ばれたシュニは、口に運ぼうとしていたクッキーを見下ろして、一度男と見比べてからクッキーを口に含む。
男は気にせず扉を閉め、シュニの向かい側のソファに座っていた。

「そう言う割には、ノックは聞こえませんでしたけど」

「おや。そうでしたか?でも不思議ですね。もしあなたが会長の部屋にいるのなら会長の椅子にでも座ってそうなものですけど」

そうやって、男―――パリストンはニッコリと自慢の顔に笑顔を貼り付ける。
ハンター協会の副会長である彼が会長であるネテロに用事があるのはおかしなことでは無いだろうが、今、この対面はおかしいところだらけであった。
それを考えに入れると、どうやらシュニがネテロの部屋に居たのは偶然ではないらしい。

「ああ、そういえば携帯が壊れてしまったようですね。白色は気に入りませんでしたか?」

そうやって笑みを浮かべるパリストンの白いスーツが、シュニの目には痛かった。

「そういうわけで、何色か用意してきましたが何色が良いですか?」

机の上に、シュニの反応も待たずパリストンが携帯を何個か置いていく。
どれもシュニが壊した白色の携帯と全く同じデザイン。
白、黄色、オレンジ、赤、緑、青、紫、黒。
シュニは別に、携帯の色などはどうでも良かった。
あのときはゴトーの殺気にあてられ、少しばかり苛立っていたというべきか。
しかしそんなことをパリストンは知らない。
―――否、もしかしたら彼のことだ。それすらも知っているのかもしれない。
だけれど、そんなのはどうでも良かった。
シュニは何を考えるでもなく、再び白色へと手を伸ばそうとする。

「ああ、そうですね」

「っ!?」

白色の携帯に触れそうだった手を、パリストンが突然掴む。
驚いて引っ込めようとしたが、その笑顔からは予想もつかない強い力にシュニは顔を歪ませた。
そしてそのまま、パリストンはシュニの顔から視線を手へとうつし、その手はオレンジ色の携帯の上で停止する。

「僕はこの色なんてシュニちゃんに似合うと思うんですけど、どうです?」

「………………」

シュニの手の上から、パリストンがシュニの手を押さえつける。
押さえつけられたシュニの手の下には、オレンジ色の携帯。
色なんてものはどうでも良かった。
だけど。
シュニは、パリストンの笑顔に同意をすることは出来なかった。

「………いえ。白色でいいです。パリストンさんのスーツと同じですしね」

そう言ったシュニは、パリストンの笑顔の種類が変わったことに気付かない。
もとより、パリストンの顔などきちんと見ようとしていないシュニだ。笑みを浮かべていることすら気付いていないかもしれない。

「そうですか。でしたら、また会うときも白いスーツで会いにくるとしましょうかね」

「携帯が壊れてなければの話ですけどね」

パリストンは満足したのか、シュニの手をゆっくりと離す。
そのままシュニの手は白色の携帯を握り、他の色の携帯など見向きもしなかった。

「メールは送信済みです。必要な物があれば遠慮なく言って下さい。それでは、僕は仕事があるので」

「はい。それじゃ」

「頑張っての一言くらいは欲しいですね」

しかしそんなパリストンの声も聞こえてないといったように、シュニは貰った携帯をポケットに仕舞い、残っていたクッキーを口に含む。
パリストンはそんなシュニを一瞬見たあと、その顔に笑顔を貼り付けたままネテロの部屋から静かに出て行った。

さあに遊びましょう


(これは、参加してしまった遊具の話)



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