03
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少女は逃げていた。
先程までの好奇心や興味なんてものはとうに無くなっていた。

「(なん、どうし……)」

混乱していて、今自分がどんな道を走っているのかも定かじゃない。
普段なら全員殺して安眠するのだが、人数が多い。
いや、実際、少女に人数などは関係無い。
だが1人1人の力が強すぎた。

「(7、8……10は、いる…?)」

身体は疲れていないが、何日も食事をしていない少女の身体は思ったように動かない。

「(人識くらいのレベルがほとんど……何人かは、兄様たちと同じくらい…)」

ペース配分をしっかりやれば、何日も走り続けられる自信はあった。
だが、30分しか逃げていないのに少女の息はもう上がっていた。
少女は自分の両手を見て、右の手袋を口で外した。

「……………やっぱ、り…」

少女の手の半分は、闇に溶けていた。
    ・・・・・
――――透けているのだ。

「……………ハァッ、…ハァ…」

身体が透けているのに気が付いたのは、この世界に来てから2日目のことだった。
まだ半月程度しか経っていないが、それは日に日に酷くなっているということを少女は知っていた。
透けていても感覚があったはずの左手は、もう感覚さえない。
少女はこの世界に来て3日目にしてその原因を思い浮かべることができた。

「(………拒絶反応)」

他の世界の人間が違う世界へと"空間"を、もっといえば、違う"何か"を無理矢理ねじ曲げてこじらせて無視したのだから、それくらい起こり得るだろうと予想してはいた。
しかし。

「(消えたら、何処に行くのだろう)」

それは、この半月、悩んでいても答えが導かれなかった問い。
元の世界に戻るのかとも考えたが、あの"世界から外れた存在"の人類最強が飛ばしたのだから、その確率は低いだろうと少女は践んでいた。
だからこそ、答えが導かれない。
それは人間の「死んだらどうなるんだろう」という考えにも似ているように少女は思う。

「っ…………」

ドサッ、と少女は草むらに倒れ込んだ。
つこうとした手も、もう肘の辺りまで無くなっていたので意味がなかった。
少女は自分の足元をみる。

「もう……時間がない、のか」

いつの間にか、両足ともくるぶしまで無くなっていたのだ。
少女は仰向けになり、星も何もない暗闇を見つめる。

「(早く………早く…!)」

彼らに追いつかれる前に、消えてしまいたい。
もし彼らに追いつかれて捕まりでもしたら、きっとその事を知った人識たちは彼らにやり返す。

「(あぁ……でも、)」

このことを知る術を彼らは知らないのだから、そんなことは無いのか。
どうも、異世界というのに慣れていないらしい。
確かに、少女が殺した人間は妙な力を使う人間もいたが、少女にとってはあちらの世界と何ら変わりなかったのだ。

「(エイリアンみたいなのがいれば、まだ現実味があるんだけど……)」

少女は馬鹿らしいという風に少しだけ笑った。
もう、身体のほとんどの感覚がない。
何処に行くんだろう、と一瞬だけ考えたが、消えればわかることだ、と少女は静かに息を吐いた。

「―い!いたぞ!―――!」

見つかった、と少女は掠れる視界で男を見た。

「(さむらい…?)」

顔はしっかりとは見えないが、髪型や服装がそうっぽかったのだ。もしや過去なのかと疑問に思うがさっきの男はコートだったと否定する。
男は驚いているようだ。
人間が消えていくのがそんなに珍しいのか、異世界人のくせに。

「(……偏見だ、)」

男が何か言っているが聞こえない。
私の名前を呼んでいるのか?
あの男にしか、名乗っていないのに。

「(…………そういえば)」

思い出す。
あの男は、こちらが名乗った瞬間、雰囲気が変わった。
何回も自分は自分なのかと訊いてきた。
今言っただろう、と怪訝な表情を浮かべても男は何も言わなかった。
でも、何故か、自分を知っているような感じだった。

「(――――どうして、)」

他の世界の住人であった自分を知っているはずは無いというのに。
気味が悪かった。
後味が悪かった。
そして何より、怖かったのだ。

「(だから、逃げた)」

あの男は心底焦った表情をしていた。
何故だろう。
大丈夫だ、心配ない。そうも言っていた気がする。

「……………………」

今更だが何故こんなにも余裕があるのだろう。
身体はちゃくちゃくと透明度を増しているというのに。
これが走馬灯というやつだろうか。
にしても、長すぎる。

「――――!―――!」

ぼやける視界に入ったのは、あの男。
クロロ、とか名乗っていたような気がする。
もうほとんど感覚の無い透明感70パーセントくらいの身体を、男は抱き寄せた。

「―――――、俺たちは―――から、――――だ」

もう五感も十分に機能していない。
多分、追っていた気配は全員この身体を見下ろしている。
ポタ、と顔に何か生暖かいものが当たった。
こんなときに、雨だろうか。

「―――!―――――」

暗闇に溶け込む。
ここから消える。
世界に拒絶される。
幸せになんて生きる前に、拒絶されて終わりだってさ救えないね。

「(バーカ)」

赤色なんて、大嫌いだ。

私は世界から拒絶される


(これは、悲しいはずの笑い話)



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