05
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闇に突如現れた白い煙に驚いたのはゴトーだけではなかった。
シュニも、自分の視力が落ちたのか、視界が霞んでいるのかと思い、目を一度閉じて再び開ける。
しかし視界がクリアになるどころか、その白みは増していくばかり。
それは段々と濃くなってきて、最終的にはシュニを取り囲むかのようにその煙は現れた。

「……………………」

完全に闇と隔離されたそこで、シュニはただただ煙を睨みつける。
あのゴトーと名乗った執事の仕業だろうかと煙を睨んで静かにナイフを投げてみるが、それは虚しく地面に落ちた。
カランと地面を鳴らしたナイフに、どうやら見た目とは違い、その煙にはかなりの強度があるようだった。
おそらく自分も通れないだろう、と考える。
そして外側からの攻撃も通らないはずだ。
さてどうしたものか、と眉間に皺を寄せたところで。

「っ――――!?」

左足を引っ張られ、突然のことにシュニはバランスを崩した。
この下は地面のはずなのに――と、非現実なことに頭が追いついていかないこともシュニの判断力を鈍らせた原因である。
シュニはそのまま地面に引き込まれ、重力に逆らうことなく落ちていく。
若干の浮遊感を感じたあと、ふわりと何かに受け止められた。

「全く、昼間といい、私たちに迷惑をかけないでいただけますか」

顔をあげてみれば、その冷たい視線でこちらを見下ろしているノヴの顔。
どうやらノヴに横抱きにされていたようで、シュニは慌てて殺気をしまった。
ゆっくりと降ろされた場所をキョロキョロと見渡してみるものの、殺風景すぎて説明する言葉が出てこない。

「ったく、なんつー奴と戦ってんだよお前は」

「あ……モラウさん」

声がしたほうを見てみれば、大きなキセルを持ち、口から煙を吐いているモラウだった。
こんなところで何をしているのだろうと首を傾げたくなったが、今そんな質問をするのは空気が読めてなさすぎだろうとシュニは開きかけた口を閉ざす。

「部屋にいねぇと思ったら血まみれで帰ってくるなんて、夜遊びにしてはちょっと刺激的すぎじゃねえのか?」

「………………」

ノヴに足から地面におろされ、痛む身体を気にせず静かに立って二人を見上げた。

「(…………………?)」

モラウとノヴは、シュニの雰囲気に何故か近寄ることが出来なかった。
かなり血を流しているようだったし、傷の手当でもしようかと思っていた二人だったが―――しかし。

「―――シュニさん?」

ノヴが名前を呼ぶが、シュニはただぼんやりと二人を見つめているだけ。
そしてその手には、シュニが持つには不気味なほどにアンバランスな鋏が握られていて。
モラウは、停止した頭の奥で、ゾクリと血の気が引いていくのを感じた。
この感覚を、俺は知っている。
そうだ。これは。あのとき、彼女と初めて出会ったときの感覚に似ている。
そう、気付いたときだった。

「久しぶりじゃのシュニ」

「会長!」

ネテロとモラウの背後から、ゆらりと姿を現したのは、会長と呼ばれるネテロであった。
ハンター協会会長、アイザック=ネテロ。
勿論ここはノヴの4次元マンションハイドアンドシーク内であるため、ネテロがここにいることは二人は知っている。
しかし、シュニはネテロが突如現れても驚いた様子はない。
ただただネテロを見つめ、鋏をゆらりと揺らすだけ。

「二人ともご苦労じゃった。今晩はちょいと、ワシに任せてくれんかの」

「…どういうことです?」

二人の前に出た笑顔のネテロに、ノヴとモラウは首を傾げる。
ネテロは振り返ることもせずに後ろの二人へ口を開いた。

「上手く制御しとったんじゃがのう…感化されて、ちと殺気が抑えきれなくなったようじゃ」

ネテロが鋭く睨む視線の先を、モラウとノヴも再び見る。
先ほどの違和感はそれかとノヴは眉間に皺を寄せた。
抑えているつもりなのだろうが、微かに、それでいて徐々に漏れてくる純粋な殺意。

「……………………」

まるで鬼のようだ、とモラウはシュニを見つめる。
殺意の塊のような存在を、自分は知らない。
こんな――――こんなものが。
こうして世界で普通に生きているとでもいうのか。
今すぐにでも人を殺しそうな、まるで殺人鬼のような―――

「行きましょう」

「…………ああ」

ノヴの声に、モラウは躊躇なくネテロへと背を向ける。
シュニも、そんな二人に焦点を合わせることなく開いた扉をぼんやりと見つめるだけ。
後ろで扉が閉められた音をきいて、ネテロはどうしたものかと困惑した表情を浮かべた。

「全く持って、困った子じゃの」




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