05
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「ショッピングって…なんでこんなときに」

「この街は有名なお菓子やブランド物が安い値段で買えることで有名ですからね。それ目当てなのでしょう」

「あー、くそ。今からでも部屋に戻りたいぜ」

「荷物持ち、とても似合ってますよ」

「お前の能力でこれらをどうにかしてくれよ」

「お断りします」

愚痴を零すモラウの両腕には大量の紙袋がぶら下がっており、シュニも初めは躊躇していたのだが、ノヴの「構いませんよ」という言葉に遠慮なくモラウの両腕に紙袋をぶら下げていた。
対し、ノヴは涼しげな顔で紙袋を一つ持っているだけである。
ノヴの能力―――4次元マンションハイドアンドシークの物専用ロッカールームにでもこれらの荷物を入れろとモラウは言っているわけだが、シュニの手前、それを大っぴらに見せるわけにもいかない。
はあ、と溜息をつき、人ごみに消えていくシュニの後ろをゆっくりとついて行った。

「――――――――?」

シュニはふと、チラリと視界に入ったモノに足を止める。
横を向き、ぼんやりと人ごみを見つめた。
しかし目的のモノは見つからず、シュニは方向転換をして視線の先へ足を進める。
モラウとノヴはシュニを見失っても追いつくことが出来るだろうとシュニは後ろを気にせず前だけを見た。
そして人ごみを抜ければ、そこには少し高そうなレストラン。
入り口にはスーツ姿のいかつい男が二人立っているだけで、辺りを見渡すがシュニが探しているモノはそこにない。

「……………おい」

呼び止められ、振り返る。
その眼鏡の下にある目つきは悪く、モミアゲと顎ヒゲがくっついていて、レストランの前に立つ男達のようなスーツではなく執事が着るような燕尾服を着用していた。
背は高く、おそらく180はあるだろうとシュニは考える。
勿論見上げる形になるのであるが、そうやってシュニを見下ろす男に見覚えは無かった。
一体何の用だろう、とシュニは疑問符を浮かべる。

「その殺気を仕舞え」

「……………………」

微かに震える空気に、シュニの目の奥で殺意が静かに揺れ動いた。

「こっちは仕事中なんだ。邪魔をするってなら容赦しねぇぞ」

男はその言葉と共に、いつの間にか手にもっていたコインを親指で弾いては手の平でキャッチをするという行為を繰り返す。
シュニはそのコインをじっと見つめていたが、ゆっくりと再び男を見上げて。

「………よ「私の連れに何か用ですか?」

そう、シュニの言葉を遮って言葉を口にしたのは紙袋を左手に持つノヴであった。
男はガンを飛ばすようにノヴを睨みつけるが、ノヴもその無表情を崩さない。
しばらくにらみ合っていた二人ではあるが、先にノヴが口を開く。

「行きますよ。買い物もまだ途中です」

「あ、はい」

「それじゃ。失礼しました」

「…………………」

男は舌打ちをしたい気持ちをぐっと抑え、シュニとノヴの背中を見送った。
その後姿が見えなくなってから、鳴っている携帯を取り出しそれを耳に押し付ける。

「……終わりましたか。わかりました」

まるで先程シュニたちと出会ったことなど無かったかのように男は携帯の向こうの相手にそう答え、レストランへと入っていく。
燕尾服を揺らし、男―――ゴトーは苛立ったように扉を閉じた。

「まったく。少し目を離しただけで変な人に絡まれないで下さいよ」

「変な人?」

「ええ。一般人ではない人という意味ですよ」

それだけ言うと、ノヴはベンチに座って休んでいるモラウの元へとシュニを案内する。
体力や肺活量に自信のあるモラウであったが、買い物に付き添うのがこんなにも疲れることだとは知らなかったのだろう。
涼しげな顔をしているノヴに、女の着替えを見てテンパっていたくせにと言おうとしたモラウであったがどことなく苛立っているノヴに開きかけた口を閉ざした。

「だから、一人で行くって言ったんですよ…」

「構うな」

疲れているモラウを心配したようにシュニが言うが、鬱陶しいとでもいうようにひらひらと手を振る。
ノヴも流石にこれ以上買うものなら自分の能力でも使ってあげようかとその無表情を崩しそうになったが、その前にシュニがモラウへ近付いて口を開いた。

「ホテルに戻りましょう。欲しいものは買えましたから」

「あ、おい」

モラウが左手に持っていた分の紙袋を持ち上げ、シュニは歩き出す。
そんなシュニの後姿を慌てたように立ち上がったモラウはじっと見ていたが、はあ、と盛大に溜息をつくと地面に置いといた紙袋を持ち上げてズンズンとシュニに近付いて行った。

「お前さんは大人しく歩いてろ」

「大丈夫ですよこれくらい」

「いいから。こういうのは黙って男に持たせとけってんだよ」

「半分持ちましょうか?」

「ノヴ、てめぇな……」

こうなりゃヤケだ、とでもいうように両手に紙袋を持って歩き出すモラウにノヴが声をかけるが苛立ったようにモラウはノヴを見下ろすだけ。
そんな二人の後姿を見ながら、シュニは静かに笑みを零してからついて行った。

穏やかな侵


(これは、誰も望まない出会いの話)




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