01
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「おいノヴ、ターゲットは見つかったか?」

『いや。こちらはまだ見つかりません。そちらもですか?』

「ああ。さっきから見つかるのは死体ばっかりだよ。ったくどうなってやがるここは……」

モラウは通信機を切り、ポケットに入れながらゆっくりと辺りを見渡した。
マフィアの交戦でもあったのかと思うくらいに荒れているそこに、とうてい生きている人間がいるとは思えない。
しかし、ハンター協会の会長であるネテロがモラウとノヴに対して伝えた任務は『生存者を連れ帰ること』。それだけだった。
つまり、生存者は必ずいるということである。

「(こんな中生きてたら俺達の助けなんていらねぇだろうに……)」

見渡す限りの死体、死体、死体。
何があって、どうしてこうなって。
別に人を殺す奴がどうとは言わない。仮にもハンターである自分は、人が人を殺すところも、人が人に殺されるところも嫌というほど見てきた。
自分が人を殺してきたかどうかは今語るべきことではないが―――しかし。
これはあまりにも常識を逸脱していた。
一体何が目的で、どんな理由で、こんなにも人が殺しあったのか。

「一歩」

「っ!?」

小さな声に、弾かれたように顔を上げる。

「もう一歩踏み出したら、私の話し相手じゃなくなりますよ」

ゾッ、とした。
その凛とした鈴のような声の主は、一人の少女だった。
黒く長い髪を結ぶことなく風に揺らし、地面に横たわる死体など気にせず、その少女はただじっとモラウを見るだけ。
その夜のような黒い瞳の冷たさにもゾッとしたが、それよりも、少女の綺麗さに驚きを隠せない。
こんな血まみれの場所で、歩き回っただけで血で汚れたモラウと違い、少女は綺麗な部屋で寵愛されているかの如く綺麗だった。
容姿は幼いわりにはどこか大人びた、それでいて子供の純粋さも秘めているようなそれに、モラウは少しの間言葉を失う。

「ここにもうすぐ来る、私を連れて帰ってくれる人を知ってますか?」

「…………は?」

突然の質問に、モラウは唖然としたようすで反射的に声を出してしまった。
しかしすぐに現実へ引き戻され、血の臭いでむせ返りそうになる。

「知ってますよね?なら、その人たちのことを教えて下さい。間違って殺してしまったら怒られてしまいますから」

変に丁寧で落ち着いた物言いに、モラウはなんだか気味の悪いものでも見るような気持ちになった。
今すぐにでもこの任務を放り出して帰りたいと思うくらいに、それは不気味なほど強烈なもので。

「……………間違って?」

「?どうかしましたか?」

モラウは、ここに来るまでの道のりを思い出す。
死んでいた全員の身体にある傷を鮮明に思い出し、その事実にもしかしたらと血の気が引いた。
彼らは殺しあったのではない。
殺されたのだ―――この一人の少女に。

「お前………どうして」

「で?どんな人たちなんですか、その人たちって」

「どうやって…なんで……何が、どうなって…」

「――――教えてくれないんですか?」

ザワッ、と空気が一瞬で凍りついたのがわかった。
頭の中で、今すぐ逃げろと警戒音が鳴り響く。
頭が混乱して、困惑のまま、何をどうすればいいのか。
誰か―――誰か。
・・・・・・・・・・・
誰か生き残ってる人間は。

「鳴ってますよ」

「!?」

少女の言葉にハッとして自分のポケットを見下ろす。
今この瞬間に少女に攻撃されてしまえば何の抵抗も出来ずに一瞬で殺されてしまったであろうが、それでも、その通信機の通信音に今は助けられたといっても過言ではなかった。

「………どうした」

『いえ。生存者が居たと報告しようとしたのですが、あなたの方が早かったようですね」

声が、通信機ともう一方―――少女の背後から聞こえてくる。
それを確認し、モラウは通信機を切った。
遅れて、少女の後ろからやってきたノヴも通信機を切ってポケットへ仕舞う。

「大丈夫ですか?汗だくですよ」

「……ああ。ちょっと運動してたんでな」

「そうですか」

しかし、少女に驚いた様子はない。
それはノヴが近くに来ていることをわかっていたからなのか、それともノヴがいようと余裕だからか。
どちらにしろ、このままでは無傷では帰れないだろう。
どちらが、とは言わないが。

「どうもお嬢さん。ノヴと言います。今私達は生存者を保護しにここへ来ています。私達と一緒に来て下さいますか?」

ノヴはモラウの状況にあまり深く突っ込まず、淡々と少女に説明をする。
少女は平然とモラウへ背を向け、そのままノヴを見上げた。

「わかりました。えっと、あの人もですか?」

「そうです。彼はモラウ。ああそうだ、他の生存者がどこにいるか、知っていたりしますか?」

モラウは汗を拭き、少女の横を通ってノヴの横へと並ぶ。
二人して少女の言葉を待つが、少女は首を傾げたまま

「生存者は私だけですよ?ああ、もしかしてそれじゃ不味かった感じですか?」

と、どうでもいいと言った風に呟いた。



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