08
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「それで、これがだな……」

「ああ、うん。昨日やったやつだね」

「そうだ」

フランクリンとシュニが机を挟み向かい側で何やら必死に本のような物を見つめている。
どうやら、フランクリンがシュニにこの世界の文字を教えているらしかった。
彼らの中で文字が読める者は少ないので、こうして空いた時間でシュニに教えている。
シュニも一日の大半が暇なのでこうして文字の勉強をしているのだった。

「…………………」

「?どうかしたの、フランクリン」

「ああ……ちょっとな」

フランクリンはため息をついた後立ち上がると、シュニに背を向けて歩き始める。
シュニは首を傾げてそんなフランクリンを見たあと、再び本へと視線を戻した。
静かに歩いていくフランクリンの視線の先には、自分のスペースに座って静かにしているフェイタンの姿が。

「フェイタン」

「何か用ね」

「何か用なのはお前の方じゃないのか?」

「…………何の話ね」

「あのなあ…」

その場から動かず顔だけ上げてフランクリンを見上げるフェイタンに、フランクリンはため息をついた。

「そんなに殺気を飛ばされると気が散るんだが」

「殺気?そんなの出してないね」

「はあ…わかったわかった。じゃあお前がシュニに文字を教えてやってくれ」

「なんでそんなことしないといけない?」

「お前……はあ、もういい。俺はちょっと用が出来たから頼んだぞ。いいな」

「…………そこまで言うならやてやらなくもない」

「ああ。ありがとうな」

フランクリンがその場から立ち去り、玄関の扉を開ける。
その音にシュニは顔を上げてどうしたのかとフランクリンの背中を見つめるが、フランクリンは振り返らずに外へ出て行ってしまった。
どうしようかと本を睨みつけているシュニに、影が差す。

「あれ…?フェイタン、寝てたんじゃないの?」

「お前に文字を教えろと言われた。いいから早く覚えろ」

「えー…そんなこと言われても」

「面倒なこと押し付けられたね」

「面倒なら別にいいよ?」

「…………フランクリンに借りを作ておくのも悪くない」

そうシュニから視線をそらしながら言うと、先ほどまでフランクリンが座っていた場所に座る。
そして本へ視線を落としたシュニをじっと見つめた。

「えっと……これって『さかな』?」

「違う。『サラダ』。こんなのもわからないのか?」

「うーん。似たような文字で難しいよ」

「覚え方の効率悪い。違う方法にしろ」

「え?例えば?」

本から目線をフェイタンへうつす。
パチリ、と目があったフェイタンは勢いよく顔ごとシュニから目をそらすと、静かに考え始めた。
そして、静かに口を開く。

「……間違えたら針を刺す」

「ぜ、絶対嫌…」

「仕方無い奴ね。じゃあ急所じゃないところにしてやる」

「急所に刺すつもりだったの!?」

「なんか文句あるか」

「大有りだよ……」

はあ、とため息をつくとシュニは本を睨みつける。
わからない文字があったが、聞こうとフェイタンを見て、先ほどの会話を思い出して再び本を眺めた。
そんなシュニを横目で観察していたフェイタンだったが、はあ、とため息をついて立ち上がる。
何かと驚いて顔を上げるが、フェイタンはシュニのことを見ずにシュニの元へと歩いてくる。
そして、静かにシュニの隣へ腰を下ろした。

「えっと…フェイタン?」

「教えるから早くわからない文字言うね」

「………刺さない?」

「なんだ。刺して欲しいか」

「お断りします…」

無口でじっとシュニが眺める本を見ているフェイタンだったが、シュニが指で文字を指して聞くと淡々とではあるがそれが何かを教えてくれる。
シュニも段々と文字を覚えていき、最終的にはかなり読めるようになっていた。
ただこれを明日以降になってまた覚えていられるかということだったのだが、明日もやれば大丈夫だとシュニは静かに笑みを零す。

「何笑てる」

「え?ううん、なんでもないよ。ありがとうフェイタン」

「…………………」

「フェイタン?」

「そろそろうるさい奴が帰てくる時間。こうして話してる所見られたら絡まれるね」

「?」

フェイタンが立ち上がり、自分のスペースへと歩き出した。
シュニは本を閉じ、どうしたのかとフェイタンを見つめる。
フェイタンが静かに座ると同時、入り口の扉が勢いよく開かれた。

「シュニ!ただいま!元気だった!?」

「あ、シャル。お帰り」

「あはは……げっ、フェイタン」

「…………………」

「って寝てるのか。あ、そうだ。シュニ、聞いてほしいんだけど、」

「シャル。その前にアンタはシャワーでも浴びてきな」

「ああパクノダ。うん、そうするよ。またねシュニ」

「うん。あ、パクノダお帰り」

「ただいま」

顔や洋服が汚れてるのも気にせずシャルは笑顔でシュニに近寄るが、後ろから入ってきてドアを静かに閉めたパクノダが呆れたようにシャワーをすすめる。
その言葉に、確かに、と頷いてシャルは寝ているフェイタンにお構いなしに慌てて二階へと上がって行った。
シュニはいつの間に寝たのだろうとフェイタンを見つめたが、パクノダが向かい側に座ったのを見てそちらへ目線を移す。

「アンタも大変ね」

「え?」

「まあ、そういう意味じゃシャルもフェイタンもフィンクスも……ノブナガもかしら。クロロはわからないし………ねぇ、実際の所どうなの?」

「えーっと…話がわからないんだけど」

「ふふ。まだまだ子供ね」

「………同い年くらいじゃなかったっけ」

勿論見た目の話であったが、そういえば、とこの前のマチとの会話を思い出した。
そしてマチの視線を受けた自身の胸を見て、パクノダの胸を見て。

「………………」

「あら?どうかした?」

「う、ううん……」

マチの言っていたことがわかった気がした。



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