07
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「いててて……」

「少し無理をしすぎじゃないのか、フィンクス」

「んなこと言ってもよお…」

「どうしたの?」

シュニが二階から降りてくると、一階にはフィンクスとフランクリンの姿があった。
シャワーを浴びてきたのかシュニの髪は濡れており、タオルでその滴る水で肩を濡らさないようにしている。
二人は座っている体勢のまま階段から降りてくるシュニへ視線を移した。

「ああいや、ちょっと怪我しちまってよ。フランクリンに手当てしてもらってんだ」

「大丈夫?」

「ああ。これくらいすぐ治る」

「だからと言って無理はするなよ」

「わかったって」

包帯を巻き終えたフランクリンは救急箱を閉じるとそれを元の場所に戻すために立ち上がる。
シュニはそんなフランクリンを目で追いながら口を開いた。

「前から思ってたけど、フランクリンって手当てするの上手いよね」

「いや、他の奴らが手当ての仕方を知らないだけだ」

「あはは……なるほど」

かくいうシュニも、絆創膏を貼るくらいしか手当てというものはしたことがないので何も言えずに乾いた笑いを零すだけ。
その太い指でよく綺麗に包帯を結んだり出来るな、とシュニはフランクリンの指を見た。

「ま、つっても縫うのはマチの方が断然上だな」

「そりゃな。つうか俺は別に手当てが専門なわけじゃないんだよ」

「そうなの?」

フランクリンは一人用のソファに座り、必然的にシュニは二人用のソファに座っていたフィンクスの隣に座る。

「な、なんでここに座るんだよ!」

「え?だって席ここしか空いてないし……」

「あ、ああ、そういうことか」

「フィンクスのことは気にしなくて良い。癇癪みたいなもんだ」

「なにそれ」

「かんしゃく……?なんだそれ」

「いや、いい…なんでもない忘れてくれ」

シュニとフィンクスの疑問はそれぞれ違うものであったが、フランクリンは口を動かすのが面倒だとでもいうようにため息をはいた。
シュニとフィンクスはどうかしたのだろうかと顔を見合わせるが、途端、フィンクスが顔を真っ赤にしてシュニから顔を背ける。
首を傾げるシュニであったが、ドアが開かれた音を聞いて入り口へと視線を移した。

「あ、こんなところにいたのかフランクリン。ノブナガが手当てして欲しいってよ」

「だから俺は医者じゃねえって言ってんだろ…」

「縫うような怪我だったらアタシがやるから安心しなよ」

「へいへい」

フランクリンは立ち上がり、先ほど棚へしまった救急箱を持って足早にこの場から去る。
そんなフランクリンとすれ違ってこちらへ歩いてきたマチは、先ほどまでフランクリンが座っていたソファへと深く腰掛けた。

「……なんでフィンクスあんた顔赤いんだ?」

「あ!?き、気のせいだよ気のせい」

「ふぅん…まあ別にどうでもいいけどさ」

ふわぁ、と欠伸してから髪が濡れているシュニを見る。
その鋭い目がシュニを睨みつけるように観察するが、シュニは特に不快にもならず恐怖も感じていないようにマチを見つめ返していた。
そしてその視線がシュニの胸へ行き、マチは自分のと見比べると、ほっ、と安堵のため息を零す。

「パクノダの成長があれだけどあんたが居るから安心か」

「え、ちょっとそれってどういう…」

「アタシもシャワー浴びてこよーっと。フィンクスもちょっと休んだら再開しなよ」

「言われなくてもわかってらぁ」

シュニが説明を求めるような目でマチを見るが、マチはなんだか含んだ笑みを浮かべながら立ち上がり、そのままフィンクスへの言葉を呟いただけで二階へと行ってしまった。
フランクリンは自分の足に巻かれた包帯を見てから、シュニの右腕に巻かれている包帯を見る。
あの時から時間は経過していてその怪我は軽く見えるものの、フィンクスは何か納得がいかないといったように眉間に皺を寄せた。

「その怪我」

「え?」

「オレたちがもっと強かったら、お前は怪我なんかしなかったか?」

初めて出会ったときにシュニをぶっ飛ばしたのを思い出し、次いで、血まみれで傷だらけのシュニを思い出す。
クロロに命令されるがままに奴らを殺し、シュニを助けた気分でいた。
でも、違った。
あの場に行って、傷だらけのシュニを見て。
木に寄りかかって立つ老人を見て。
自分は何もしていなかったのだという事実だけが心に落ちた。
それを理解した瞬間、自分は弱いのだと気がついた。
だけど、気がつくのにはあまりにも遅すぎたのだと、シュニの腕に巻かれた包帯をただ睨みつける。

「怪我くらい、誰だってするでしょ?」

しかしシュニは、そう言って笑った。

「強くたって弱くたって、怪我はするし事故は起きる。ただ運が悪かっただけで、フィンクスのせいなんかじゃないよ」

「で、でも、オレが、オレ達が弱くて…お前は、死ぬところだった」

「だけどそれを助けてくれた」

「え?」

「私が戦ってた人―――って言ってもあっちの一方的な攻撃だったけど、あのままだったら絶対殺されてた。でも、フィンクス達が助けてくれた。敵の正体を見抜いたフェイタンもクロロを呼びに行ってくれたフランクリンも、私を助けてくれた」

そこまで言って、シュニはその包帯が巻かれた手で、フィンクスの手を握る。
驚いたように顔を上げたフィンクスは、その綺麗な瞳に目を奪われた。

「だから、ありがとう。フィンクス達が居て、本当に良かった」

「(…………コイツは)」

一瞬シュニの瞳が揺らいだ気がして、フィンクスはシュニから目を顔ごとそらす。
何かを悩んでいるような揺らぎ。
シュニの言葉は恐らく心からのものなのだろうが、それを口に出した自分に戸惑っているような。

「でも、初対面で殴られたのはびっくりしたなあ」

「おま!そ、それはもう謝っただろうが!!」

「あはは、ごめんごめん」

謝ると同時、シュニはフィンクスの手を離す。
そのままその手で濡れた髪を触り、「まだ乾かないかあ」と残念そうな声を零した。
フィンクスは何も言わず、握られていた手を静かに見下ろしていた。




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