04
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クロロに許可をもらい、シュニは流星街を歩いていた。
シャルも共に来ると言うかと思っていたが、なにやらしなければならないことがあるとかで残念そうにしていたのを思い出す。


「これ、何かあったらこのボタンを押せば俺に繋がるから!」



そういって受け取った携帯電話と呼ばれるそれを見る。
手で握りしめても壊れなさそうなそれは、小さな手には少し重かったがその重さが何故か安心を誘った。
オレンジ色のそれをポケットにしまい、景色の変わらない道とは言え無いそこを適当に歩く。

「!?」

突然の鋭い殺気に、シュニはその殺意へと斬りかかった。
逆手に持った大鋏を大きく振り上げて、空間を斬る。
しかし。

「………あれ?」

そこには誰も居なかった。
そして、殺気も既に存在しない。
シュニの一瞬の殺気も、まるで最初から無かったかのように消え失せて。

「……どうかしたかの?」

優しそうな老人の声に、シュニの手から既に大鋏は消えていた。
振り返れば、真っ白なヒゲを生やした老人が服を風に靡かせてそこに存在している。

「おじさんこそ、迷子ですか?」

「うむ…この場合、お嬢ちゃんの方が迷子な気がするが……」

「私はここに住んでるから」

「それにしてはちと凶暴すぎんかの」

笑みを浮かべる老人に、シュニは一瞬だけ視線を逸らした。

「おじさんは私に何かご用ですか?」

「まあ、用が無かったらこんなところまで来たりはせんよ」

そう、笑みを携えながらも老人―――ネテロはシュニを観察する。
先ほどの一瞬の殺気に、なんの躊躇いもなく飛びかかっていったこの少女。
殺すことしか考えていない――――否、それすらも考えていないかのように、空間を斬ったあの殺気。

「(そして、非常に不安定な………)」

揺れ動いているのか、迷っているのか。
不安定な存在であるが故、さらに危険をにおわせるその雰囲気。
このまま放っておけば、彼女はどうしようもなくなるであろう。
どうしようもなく人を殺し。
どうにかなるまで人を殺す。
そこに理由も目的も無い―――なんて不安定で、危険な存在であろうか。
今此処で会えたことに感謝するべきか、それとも。

「なあ、嬢ちゃんや」

縁が出来てしまったことを嘆き、後悔するべきか。

「わしと一緒にここから出るっつうのはどうじゃ?」

ニッコリと微笑んでみれば、なにか反応があると思ったが、それもない。
彼女はただただその黒い瞳でこちらを見てくるだけ。
闇というよりは、裏のような存在。
ここで殺しておくべきだったとあとで後悔するかもしれないが、ネテロにそんな選択肢は無かった。
それは優しさからきているのか、ネテロにすらわからない。

「………知らない人にはついていってはいけないと教えられました」

「ネテロじゃ。嬢ちゃんは?」

「シュニ」

「シュニか…。嬢ちゃんも、わしがただ適当に声をかけたんじゃないことくらいわかってるじゃろ」

その言葉に、シュニは黙りこむ。
先ほどの殺気で、既にこの老人がただものではないことくらいわかっている。
だからこそ、シュニは喋ることをやめてこの後どうするかを考えた。
彼を殺せるか―――それとも逃げ切れるか。
殺されるわけにはいかない。
零崎がこの世界にいないとわかっていても、それでもそうしない理由が無い。
しかし、ネテロはシュニの考えとは別のことを口にする。

「わしなら、嬢ちゃんには殺されんよ」

「………………!!」

「嬢ちゃんがどんなに強くなろうがわしは殺されない。かと言って嬢ちゃんを殺すつもりもない。もう一回聞くがの、わしと一緒にここを出ないか?」

何を言っているんだ、とは思ったが、それは話がずれているという意味ではなく。
何故それを知っていて、何故欲しい言葉を言ってくれるのだという驚愕で。
もはやこの人物が何者だとかどうでも良かった。
あの、何年か前の、零崎になったとき、彼らと出会ったときのような感覚にとても似ていた。
自分に殺されない存在。
自分が殺せない存在。
目の前にいる彼が自分と同じかと問われれば違うと断言出来るが、それでも彼はどこか似ている。
だからこそ惹かれ―――だからこそ遠ざかりたくなる。

「…………3日後にまたここに来る。返事はそのときまで待とうかの」

そう言って立ち去ったネテロの後ろ姿を、シュニはただ見つめることしか出来なかった。

「……………………」

どれくらいそうしていただろうか。
ポケットが震えると同時に聞えた機械音に、跳び上がるように驚いて自分を取り戻す。
慌ててポケットの中に手を入れ、シャルに渡された携帯を取り出し、ボタンを押した。

『シュニ!もう夜だよ!!どこにいるの!?』

「あ、シャル……」

『あ、シャル…じゃないよ!心配したんだからね!』

「ご、ごめん。すぐ戻るよ」

その後も電話の向こうでギャーギャーと騒いでいたため、苦笑いをこぼしながらシュニは通話終了のボタンを押す。
一度だけ振り返ってネテロが居た場所を見つめたが、風が吹き抜けたと同時にシュニの姿はそこから消えていた。



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