01
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「…………………」

「………何か用かい?フェイタン」

夜。暗闇。月の明かりすら届かない此処で、クロロはただ座っていた。
そして、足音も立てずに現れたフェイタンを、振り返らずに呼ぶ。
フェイタンは足を止め、じっとクロロの背中を見つめるだけ。

「怪我はもう大丈夫か?」

しかしフェイタンは答えない。
そこでようやく、クロロは立ち上がり、振り返った。

「何か、用かい?」

クロロは優しく微笑む。
フェイタンが黙っているのは、口下手だからという理由ではないことをクロロは既に見抜いていた。

「………何も出来なかた」

「……………?」

「"アレ"から嫌な感じがして…逃げようともした」

「それは、どっち?」

「――――両方」

フェイタンは思い出すようにクロロから目線をそらす。
対して、クロロはじっとフェイタンを見つめていた。
口元には微かに笑みを浮べたまま。

「前、クロロからも感じたね。殺気とは違う。あれは何ね」

「………知りたいの?」

「教えろ」

「どうしてそこまで?」

「………………………」

「フェイタンは十分強いじゃないか」

「……………強い?」

フェイタンの声が、低く地面を這う。
しかしクロロは笑みを浮べたまま、表情を変えることはない。
次いで、フェイタンの姿が消えた。

「これでも、ワタシが強いと言うか!?」

「………………………」

フェイタンが声を荒げる先で、クロロは片手で剣先を握って抑えている。
その手は素手にも関わらず、血の一滴も流れていない。
しばらく睨みあった後フェイタンが刀を下ろし、クロロは左手を静かに下ろした。

「……こんなんじゃ、何も出来ないのと一緒ね」

フェイタンは地面を睨み付けたまま、震える唇を必死に動かす。

「やられぱなしはイラつくね…アイツ、絶対殺す……だから」

顔を上げたフェイタンが言った"アイツ"が誰の事か、クロロにはわからなかった。
それでも、クロロは口を開く。

「……わかった」

「なら、オレにも教えてよ」

「……………!?」

その声に、フェイタンだけが驚いたように振り返った。
クロロは恐らくわかっていたのだろう。笑みを浮べたまま、困ったように笑いを零すだけ。

「オレも、強くなる」

「………………」

フェイタンは何も言わずにシャルをじっと見つめていた。
シャルは包帯などで手当てされているフェイタンの手や頭を見て、心配そうに顔を歪める。

「……フランクリンから聞いたよ。もしフェイタンがオレの偽物だって見抜けなかったら、皆殺されてたかもしれない」

「………ワタシは何もしてないね」

「したよ!!……少なくとも、オレよりは…した」

そういって、シャルはクロロ達への方へと足を進める。
フェイタンとは違い、傷一つない手の平を見つめて、再び2人を見た。

「クロロ、オレにも教えて」

「………もう面倒だから、いっそのこと皆に教えようかな」

「本当!?」

「でも、教えるのは基礎的なことだけ。あとは自分たちで応用していくんだ」

「ありがとう!」

「………わかたね」

「さて、何人が脱落するか賭けようかな」

「ワタシは脱落なんてしない」

「オ、オレも!」

不敵に笑うクロロに、フェイタンとシャルがいつもの調子を取り戻したように言う。ふと、気付いたようにシャルが首を傾げた。

「ていうか賭けるって……誰と?」

「全員脱落に5万ジェニー」

「!?」

闇からの声に、シャルとフェイタンが驚いたようにクロロの後ろを見る。
シャルは驚くだけであったが、フェイタンはイラついたように刀を握る手に力をこめた。

「この声……!!」

「じゃあオレは誰も脱落しないに1万ジェニーだ」

「へー、信じてるわけじゃないんだ?」

「いや。オレの手持ちが全部でそれだけというだけだ。お前のような金持ちと違ってな」

「ふうん。別にいいけど」

闇に溶けるようにそこにいる"彼"は、そこに居るのにそこに居ない――そんな感じがして、フェイタンとシャルは戸惑う。
そしてその"彼"がクロロとこうして会話をしていることも加わって、フェイタンは刀を握ったまま動けなかった。

「あー。フェイタンは知ってるけどシャルは初めてか。こいつはイルミ=ゾルディック。殺し屋だ」

「…なんでコイツが此処に」

「イルミとは知り合いでね。ゾルディック家は『依頼があれば誰でも殺す』んだ。その依頼内容は他言厳禁―――まあ、今回はオレに教えてくれたわけだけど」

「別に教えてない」

「オレに地図付きナイフを殺す気で投げて来たのは誰だっけ」

「死ななくて残念」

「まあ、そういうことにしておくよ」

「………つまりどういうことね」

今度は、苛立ったようにフェイタンが口を挟んだ。
イルミと呼ばれた黒を睨むが、その闇のような瞳は動じない。
こちらだけが苛立っているというその事実が、一層フェイタンを不機嫌にさせた。

「その依頼をした人間が死ねば、依頼は無かったことになるんだよ」

「?ねえクロロ、オレ、全然話がわからないんだけど…」

「イルミはシュニを殺そうとした張本人だよ」

「な…!!お前!!!ふざけんなよ!!」

「もう依頼は無かったことになったから殺さないよ」

「でもまた依頼があったら殺すんだろ!?」

「うん」

「だったら、」

「その為に強くなるんだろ?」

「え?」

クロロの苦笑いに、シャルは驚いたように声を出す。
そして、クロロの方を数秒じっと見つめたあと、ボンッ、と音と共にシャルの顔が真っ赤になった。

「ち、ちが、オ、オレは!その、えっと、フェイタンをぶっ倒すために強くなるだけであって!そんな!」

「なんでワタシね」

「じゃあオレ帰るから」

「なんで来たね」

呆れるフェイタンを無視し、イルミは闇に溶けていく。
その気配は完全に闇と同化し、もうイルミがどこにいるのかフェイタンにはわからなかった。

「というか、フェイタンはなんでイルミが変装してたシャルナークが偽物だってわかったの?」

「え、そんなに変装上手いの?アイツって」

「上手いっていうレベルじゃないよ。骨格から何から"そいつ"に変わるんだ。よっぽとじゃないとわからない筈だけど」

「本物だたらシュニが熱出た聞いたら泣き叫ぶはず」

「あーなるほど。それはイルミじゃ無理だ。あいつがそんなことしたら気持ち悪い」

「え!?ちょっと待って!なんで納得したの!?」

「無自覚が一番タチ悪いね」

「まあ、イルミがシャルに化けたのは偶然だろうけど、結果オーライだったね」
クロロは笑い、フェイタンも珍しく笑みを浮かべる。
シャルは顔が赤くなるのを感じ、今が夜で良かったと安心した。




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