06
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行動は迅速だった。
ナイフを握り締めたまま前方へと跳び、その切っ先を白髪の男の眼球目指して腕を振るった。
男5人を刺したとき以上に、身体が勝手に動いていた。

「…おっと」

男の後ろにいた少年は寸前までその動作に気付かなかったらしく、驚いたように後へ跳躍する。
しかし、男は焦った様子も無く軽く後に反ってその一撃を軽々と避けた。
そしてそのまま空ぶったシュニの手を握り、そのままシュニを見下ろす。

「随分と動けるじゃねぇか…手加減してたのか?」

ぎり、と握る手に力をこめれば、シュニの表情が歪む。

「………離してくれませんか」

その一言だけこぼし、シュニは男を睨み付ける。
しかしそんな殺気だけで男が怯むわけもなく、笑みを浮べたまま手を離した。
瞬間シュニは男から距離を取り、苦しそうにしているフェイタンの前へと戻る。

「っ……」

「!?フェイタン!」

「時間…稼ぐね。フラン、クリンが……クロロ、呼んでくる………」

そう立ち上がったフェイタンを、シュニは心配そうに見つめた。
それから平然と立つ男を振り返る。
少なくともシュニが殺した男達みたいなものではないし、そんなものではすまされないような存在だろう。
先ほどの不意打ちを軽々と避けられてしまった手前、どうにもならなかった。
恐らくそれは、ボロボロになったフェイタンでも同じ。
クロロが来れば後ろに居る少年とは互角に戦えるかもしれないが、この男は―――桁違いにヤバイ。

「(逃げないと)」

どうにかしてフェイタンと共に彼らから逃げ、生き延びないと。
でも――――どうやって?
自分1人の速さでも到底逃げ切れるわけもなく、ましてや怪我人のフェイタンもいる。
どうにも、ならない。
どうにもならなかった。
しかし敵は待ってくれない。
ゆらりと動いたかと思えば、すぐに姿が消える。
後に跳べば避けられると、シュニにはわかっていた。
しかしそれでは、フェイタンが危ない。
あちらにフェイタンを殺す気はないものの、『誤って』殺してしまう可能性だってある。
そして、シュニは結論を出した。

『―――――殺す】

思ったのか、言ったのか。
それはシュニにもわからなかった。

「っ―――――!」

そしてシュニは、狩襖シュニは、平然と男の間合いに入る。

【私に殺されて死ね」

それは誰に届いたのか。
わからないままナイフを振り下ろし、しかし男はそれをかわし―――しかしそれでも、ナイフは男に届いた。

「っ!!」

しかしそれでも、シュニは地面に叩き付けられた。
顔面から地面に埋まることは避けられたが、それでも痛みが和らいだわけではない。
痛む身体を起こし、男の次の攻撃を後へ跳んで避け、再び地面を蹴った。
男は肩に刺さったままのナイフを抜くこともなくシュニの殴りを受け流し、拳をシュニの腹へといれる。
それを半身になって避け、男の顎を蹴り飛ばした。

「っはぁ、はぁ……」

「やるなあ…まさかナイフを投擲してくるとは」

肩で息をするシュニを嬉しそうに見ながら、男は肩に刺さったナイフを抜いて地面へ投げ落とす。
男は息ひとつ切らしておらず、少年は男の後ろで黙ってその様子を眺めていた。

「確かにきいていた話と違うな…ただ子供を1人殺すということだからイルミに任せようと思っていたのだが」

「……?イルミ………?」

知らない名前に、シュニは息を整えながら疑問を口にする。
男は少し考えるそぶりを見せたあと、静かに溜息をはいた。

「こいつがイルミ。わしの孫だ」

「なぁっ………!?」

バキバキと、ベキベキという不快音を鳴らしながら、シャルだった顔が変形していく。
そして現れた闇よりも深く暗い瞳に、シュニは少しだけ寒気を感じた。
シャルの明るい金髪とは違う、闇に溶けてしまいそうな黒髪。
何も思っていないような瞳に、ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうだった。

「そしてわしはゼノ=ゾルディック。暗殺一家の1人だ」

「暗殺、一家……?」

そんなものが、どうしてこんな子供を狙う?
シュニは疑問に混乱した。
自分が他の世界から来たから暗殺しに来たのかと考えるが、そんなことがわかるわけもない。
一体どうして。

「とある男に頼まれたんだ。『俺の仲間を殺した少女を殺してくれ』と―――まあ理由はなんでもいい。頼まれれば殺す。それだけだ。まあ本当は子供全員殺せと言われたが何せ金が足りなくてな」

白髪の男は真剣な表情で、感情を思考を悟られないようにシュニを見ながらそう言葉を零す。
そんなことを言われたところで、この状況がどうにかなるわけではなかった。
頼まれれば殺す。
つまりこれは、シュニが殺されるか暗殺一家を殺すか依頼が消去されるかしなければ終わらない戦い。

「その少年がいては存分に戦えまい。外に出るか」

それは男の最低限の優しさであったか。
それとも、依頼以外の人間を殺さないというポリシーであったか。
どちらにしろ、シュニにとってもそれは有り難いことではある。
しかしそれを、フェイタンが良しとはしなかった。

「フェイタン……?」

「行く、な」

よく耳をすませないと聞えないような掠れた声で、フェイタンはシュニを止める。
シュニを引き止めるために腕を掴んだ手は、予想以上に弱弱しくて。
シュニはしばらくその手を見つめたあと、自身の手でフェイタンの手に触れた。

「すぐ帰ってくるよ。お菓子もまだ、食べてないから」





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