02
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広がる暗闇に、私が一人。
誰もいない。何もない。
そんな夢を見ていた気がした。

「やぁ。おはよう」

「……お、おはよう…」

ふと目を覚ますと、額がくっつきそうなくらいの距離に見覚えのある顔があった。
寝起きなのと近すぎるのとでピントが上手くあってないが、額に包帯を巻いているのは彼くらいだ。

「どうかした…?クロロ」

「ん?いや、よく寝てるなぁって思って」

そう優しく微笑みながら、クロロは私の上からどく。
一体何がしたかったのだろうと首を傾げてクロロを見るが、答えてくれそうになかった。
それから、気付く。
あんなにも近くにいたのに、気付かなかった。
私の身体に触れていなかったとはいえ、文字通り目と鼻の先にいたのに。

「こんな所見られたらシャルに殺されそうだなあ」

そう笑いながら、クロロは私が寝ていたソファから立ち上がる。
私も足を下ろし、座り直した。

「ん…………?」

ふと、違和感に声を漏らす。
なんだか頭がくらくらし、不安定だ。

「どうかしたかい?シュニ」

クロロが心配そうな声で私の名前を呼ぶが、視界がぼやけて上手くクロロの表情が見えない。少し寝すぎたのだろうかともう一度ソファに横になる。

「シュニ?」

クロロの声に答えることも出来ず、私は再び目を閉じた。





×





「ということだから、フェイタンよろしくね」

どういうことだ、と相手がクロロでなければくってかかっていたところである。

「こんなのシャルに任せればいいね」

「シャルはノブナガ達と一緒に付近を見てるし他のメンバーも議会へ行ったりしててさ。俺も新しく本見つけたいし。頼んだよ、フェイタン」

「………………」

クロロはこちらの返事も待たず、ドアを閉めて外へと出て行ってしまった。
ドアから視線を正面へと戻すと、ソファの上で息苦しそうに眠っているあの女が視界に入る。
どうやら慣れない環境のせいで熱を出したらしく、自分がいない間看病をしてくれということだった。
看病なんてしたことも無ければされたことも無いし、何より人を痛めつけるほうが好きな自分がそんなことをすると考えただけで虫唾が走る。

「………………お前何者ね」

近付いて尋ねて見るものの、答えは無い。

「どうしてあんな動き出来る。私と戦たとき手加減したか?」

しかし苦しそうな表情は変わらない。
額に乗せられたタオルに触れてみれば、もう冷たくはなかった。

「…………………」

確かに人が苦しんでいるのを見るのは好きだが、どうにもこの表情は好かない。
見ていてなんだかこっちが苦しくなってくる。
嫌な気分にさせるんじゃない、といった気持ちで睨み付けてみた。
反応は無い。

「何で黙てる。答えろ」

何も言わない。反応も無い。
ちらりと机の上を見てみれば、クロロが読み終わったであろう本が置いてある。
水などといったものはソファの後にある台所まで行かないとないようだ。

「……………………」

額に乗せられたタオルを取り、少し汗をかいている額へと手を伸ばす。
これは人がどのくらいの熱でこんなに苦しむのかをあとで誰かに試すために調べるだけだ、と頭にその言葉を繰り返させる。
そしてもう少しで指先が額に届くかというところで。

「!」

後のドアが開く音がして、慌てて横の椅子に座り、机の上に置いてあった本を持つ。
その際手にしていたタオルが地面に落ちてしまったが、関係ない。

「ただいま。……って、フェイタンしかいないのか?」

「…………お、おかえりねフランクリン」

「フェイタンがおかえりを言った……」

「何か文句あるか」

「ないです」

ふと、フランクリンがソファの上で眠る女に気付いたようで、そちらを見ながら中へと入ってきた。

「誰だ?」

「シャルが連れてきた」

「もう女を連れ込むようになったのか」

「あんなガキがそんなわけないね」

とは言うが、この年で女を連れ込んだ奴など1人もいない。

「なんか苦しそうだが……大丈夫か?」

「知らない。興味ない」

「タオルも落ちてるし…熱があるのか」

そう言ってタオルを拾い、フランクリンが台所へと向かう。
相変わらず本を読むふりをしているが、まだ文字をちゃんと読めるわけではないので適当にページをめくっていく。
そしてフランクリンが水で洗ってきたタオルを女の額に置き、こちらを見た。

「さっきからずっと思ってたんだけどさ」

「何ね」

「本、それ上下逆」





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