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穏やかに摩耗してゆく感情なんて受け入れられないから、いっそ止めてしまえばいいと思っている。
それは最悪の手段だと誰かは言うけれど、それ以外の方法など思いつかない。
「狩襖シュニ」
「……………………」
「こんな雨の中ずぶ濡れになって何をしてんだ」
「…………………何も」
「まぁ悟りを開いてない限り何もしてねぇだろうよ。そうは見えねぇし」
「私から離れて下さい。殺しますよ」
「そう冷たいこと言うなよ。ツンデレってやつか?とりあえずこの大量の死体の中狩襖シュニに近付けたアタシを褒め称えるべきだと思うけど」
「いつ死ぬかもわからない人を褒めてどうするんですか」
「とにかく、この死体に困ってる人間が大量にいるんだ。だからどうにかしないといけない」
「私もその困ってる人間に入ってますかね」
「入ってるわけないだろ。人間じゃないんだから」
「それもそうですね。でも、コレらに困ってるのは事実。一体誰がこんなことをしたんだか」
「素晴らしいくらいに白々しいな。賞賛するぜ」
「いつ死ぬかもわからない人に賞賛されても反応に困ります」
「そこは素直に受け取っておくべきだろ。いつ死ぬかわからないんだから」
「それもそうですね。で?この死体はどうするんですか?土葬はやめてあげて下さい。腐って見るも無残な姿になりますから」
「最早見てられねぇくらいぐちゃぐちゃなんだから今更外見にこだわらないさ」
「やっぱり人間は中身ですよね」
「おまえがいうとどうも"性格"ってほうの中身には聞こえないがな」
「あなたは私の何を知っているんですか」
「知ってると言えるほどは知らないな。だけど知らないと言えば嘘になるくらいには知っている」
「そうですか……。あぁそうだ。あなた、裏世界には詳しい人ですか?ですよね?ならば哀川潤という人類最強を知っていますか?ならば西東天という人類最悪を知っていますか?ならば想影真心という人類最終を知っていますか?人類の最もに達した三人をご存知ですか?ですよね?ならば居場所を教えて下さい。知ってますよね?」
「………どうして居場所を知りたがるんだ?」
「なんで教えてくれないんですか?みんなそうです。『知らない』って、『そんな人知らない』『どこにいるのかなんて知らない』って。どうして教えてくれないんでしょう。知ってるはずなのに。知らないはずないのに」
「案外本当に知らないのかもな」
「いいえ知ってます」
「でもおまえは知らない」
「私は人ではありませんから」
「人に可能性を求めるおまえは結構好きだが、期待はずれだからってここまで殺すことはないだろ」
「私はあなた達が呼吸をするように人を殺すのです。やめようと思ってやめられるようなものじゃない」
「殺害衝動―――ね。おまえは人間が嫌いなのか?」
「大好きですよ。でも、何も教えてくれない人間は嫌いです。知ってるくせに教えないだなんて人間はどうしてこうも傲慢なのでしょう」
「知らないんだろうよ。人間だから」
「知らないわけがない。人間なのに」
「人間を買いかぶりすぎだ」
「人間は素晴らしく賞賛に値する生き物ではありませんか」
「まぁアタシは少なくとも人類最強なら今何処にいるかわかるぜ」
「何処に?」
「此処に」
「――――は?」
「自己紹介が遅れたな。アタシの名前は哀川潤。砂漠の鷹とも赤き制裁とも呼ばれてる人類最強だ。人類最強の請負人、とも呼ばれてたかな。まぁ呼び方はなんでもいい。とにかく、アタシは哀川潤。人類最強だ」
「――――あいかわ、じゅん」
「そうだ」
「哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤哀川潤あああいあいあいあいかわ!哀川!じゅじゅじゅじゅん!あいかわじゅん!哀川潤!」
「おいおいアタシのこと好きすぎるだろ」
「会えた!ようやく会えた!人類最強!哀川潤!会えた!赤き制裁!砂漠の鷹!人類最強の請負人!会いたかった!凄く!凄く会いたくて!殺したかった!」
「―――――ッ!?」
「なんで避けるの?殺したいのに!あなたは私に殺されるのに!死んで!ねぇ!ようやく会えたのに!哀川潤!」
「おいおいやめろって。アタシは別に戦いに来たわけじゃないんだ」
「私も戦うつもりなんてないよ!ただ、殺したいだけ!さぁ死んで!」
「その武器は…!」
「右手にマラカスと鋏!左手には釘バットとナイフ!さぁ人類最強、いざ尋常に死んで下さい!」
「遠慮しとく!」
「痛い!なんで抵抗?頭にかかと落としなんて痛すぎる!」
「なぁ狩襖シュニ」
「なんですか?哀川潤赤き制裁砂漠の鷹人類最強」
「おまえは今、幸せか?」
「家賊を殺しておいてよくそんな質問が出来ますね。兄様の試験には合格でも私はあなたを愛さない」
「質問に答えろよ殺人鬼。おまえは純度百パーセントの殺人鬼だよ」
「私は今、幸せでもありません」
「それじゃぁあっちの世界に早く慣れて、幸せに生きてくれよ。それがアタシからのお願いだ。殺人鬼になった女の子」
目の前が真っ暗になった。
最後にみたのは綺麗な赤色。
零崎は始まらない
(これは、殺したいほどくだらない話)