繋がれた手の温度差
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(イルミ)



「………………………」

一度開けた扉を、何も言わずにそっと閉める。
なんだ、今の。

「ちょっとイルミ!帰ってきたなら早く入りなさい」

「あ、うん…。じゃなくて、どうしたの?母さんも…父さんまで」

閉めたはずの扉を勢いよく母であるキキョウに開けられ、イルミは唖然とその室内の光景を見つめていた。
普段感情を表に出さない(というより心の中でも感情など無いというのが正しいが)あのイルミが、どこか驚いたような表情を浮べている。

「どうしたのって…見てわからない?クリスマスパーティよ」

「いや……なんで?」

何から訊けばいいのだろう、とイルミの頭の中は今までに無いくらい混乱していた。
今朝、家を出る前はこの部屋はいつも通り質素で、必要最低限のものしかなかったはずなのに。
町中で見かけるような光ものと、机の上に並べられたたくさんの料理。

「シュニちゃんをお食事に誘ったのだけど、今日が丁度クリスマスイブだから、世間一般のようなことをしてみようと思って!」
「世間一般じゃ料理に毒は入ってないと思うけど」

しかも一般人が食べたら死ぬ量。

「あ、そうか…。彼女は毒は大丈夫なのか?」

「俺が知るわけないじゃん」

今気付いた、といった様子のシルバに、イルミは呆れたように言い捨てた。
しかしシルバもキキョウも、本気で心配しているわけではないらしく、微塵も焦った様子は無い。

「あら……まあ解毒剤もどこかにあったはずだからきっとなんとかなるわ」

「ていうか、シュニと母さん達が食事するなんて初めてきいたんだけど」

「あらそうだったかしら?あの幻影旅団とかいう奴らにシュニちゃんとの食事会を邪魔されないように奮闘していたから忘れてたのかもしれないわ」

「ああ……そう」

イルミはもう色々と諦めたかのように、溜息をはいて再び廊下へと繋がる扉を開けた。
背後で、シルバとキキョウがそんなイルミを不思議に思う。

「どこへ行く?イルミ」

「外」

バタン、と閉じられた扉の中で、シルバとキキョウは顔を見合わせた。

「この料理、私達2人で食べきれるかしら?」

「執事達にもあとでわけよう」

そんな会話をしているとは露知らず、イルミは少し急ぎ足で家の外へと足を進めていた。
表情は普段通り無表情であるが、どことなく機嫌が悪そうな雰囲気ではある。
そしてしばらく足を止めずに進んで、外へと続く扉を開けた。

「あれ?イルミ?」

「……………シュニ」

扉に今まさに手をかけようとしていたシュニと、その扉を開けたイルミが向かい合う。

「何してるの?」

「あ、キキョウさんとシルバさんに食事に呼ばれてたんだけど、電話に誰も出なくて…中入っちゃおうかなって」

「ふうん」

それだけ言って、イルミは扉が閉まる音を背中で聞きながら、じっとシュニを見下ろした。
雪が降っているというのに、傘も差していないシュニはマフラーと手袋をしている。
対してイルミは、特に防寒具は身に付けていなかった。

「え、ちょ、イルミ!?」

「…………………寒い」

「え、あ、う、うん……何か着たら?」

突然、イルミに抱きしめられたシュニは驚きの声をあげるが、イルミは平然と外に対しての感想を述べる。
イルミはシュニの問いには答えず、シュニの手袋を外してその冷たい手をシュニの手に絡めた。

「つ、めた…!」

「来て」

「え、いや、キキョウさん達との約束が……」

ぐい、と手を引っ張られるものの、シュニは頑張ってその場に留まろうと力を入れる。
しかしイルミは家へ入ろうとせず、町へおりる道を歩き出そうとしていた。

「いいから。今日は俺と食事会」

「ちょ、ちょっとイルミ…」

イルミは手を離そうと抵抗するシュニの方をくるりと向き、シュニの耳に唇を近づけて静かに囁いた。

「手、離すつもりなら切り落とすよ」

繋がれた手の温度差


(じょ、冗談に聞えないから怖い…)
(何言ってんの。俺が冗談言うような人間に見える?)







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