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日付けが変わり、時刻は午後4時59分。
このヨークシンシティに、今年のハンター試験を受けた者がクラピカ以外にも存在した。
ゴン、キルア、レオリオの3人である。
彼らはクラピカと行動を共にしているわけではなかったが、お互いにこの都市にいることは知っていた。
時刻は、午後5時となる。

『さて、皆様。ようこそいらっしゃいました!』

広い地下の空間が暗闇に包まれたかと思えば、その空間の丁度中心にスポットライトが当たる。
元の顔がわからないほどの化粧をしたその人物は、マイクを片手にその場にいる全員へ語りかけた。

『今回の競売条件はァ、かくれんぼ!でございます!!』

配られた写真に写った"7名"の男女が今回の標的。
落札条件は標的を捕獲し引き渡すこと。そうすれば標的1人につき20億ジェニーの小切手と交換する―――周りがその額に驚いているなか、ゴンとレオリオは別のことで驚いていた。
配られた写真のなかに、見知った顔があったのだ。

「おい、このコ確か」

「うん!腕相撲に来てた人だ」

昼間に開催していた道ばたでの腕相撲対決。
それに一度参加したことのある人物の写真が、配られた紙に印刷されている。
期限問わず。生死も問わず。参加費用が一人500万ジェニーかかるといえど、その賞金は破格のものだ。
腕相撲対決"なんか"に参加するほどの人物が何故―――と3人は会場を後にする。

「500万ジェニーの参加料をとって競売の体裁をとりつくろってたけどさ、競売品が品物じゃなくて小切手って時点でもうおかしいと思わねー?」

腕相撲での一件を知らないキルアでさえ、"7人"の正体に疑問を思っている。
周りの人間が情報を集めろと部下や仲間を急かすなか、それだけでは捕まえられないだろうという予想。
焦る必要はない。今必要なのは、彼らが"何者か"という情報。

「まさか…地下競売の品がこいつらに盗まれた…!?そこでしかたなく競売を装って盗人の首に賞金をかけたのか!」

「そ。マフィアのお宝盗むなんてこいつら頭イカレてるだろ」

レオリオの推理をキルアは肯定し、そんな"イカレた"連中に心当たりがあると自身の頭を指さす。

「―――幻影旅団」

3人の間に沈黙が流れた。
その名を、3人は"彼"から聞いたことがある。

「………そういえば、クラピカはどうしてるんだろう」

そんな"彼"の名を出しながら沈黙を破ったのはゴン。
そういえば彼もこの都市に来ているはずだ、とポケットから携帯電話を取り出す。

「親父がさ」

クラピカを呼び出すコール音が鳴るなか、キルアが静かに口を開いた。

「仕事で旅団の1人を殺ってるんだけどさ。珍しくぼやいてたんだ。『割に合わない仕事だった』って。それって標的に対する最大の賛辞なんだけどさ」

その時オレ達兄弟に言ったんだ、とキルアの言葉に驚く2人を身ながら言葉を続ける。

「『旅団には手を出すな』――3年くらい前の話だけどね」

「その話クラピカにしたか?」

「してないよ。意味ないし」

「問題はオレ達がどうするのか―――」

そこで、コール音が止まる。
そして、電話口からは聞き覚えのある声。

『…もしもし?』

出た声は明るくも暗くも無い。
恐らく仕事中であろうクラピカが電話に出るかどうかは五分五分だったので、ゴンは驚いたように声を出した。

「あ!クラピカ?おれ!ゴンだけど」

『着信時にわかっている。2人も一緒か?』

「うん。キルアもレオリオもいるよ。今少し話したいんだけど、時間ある?」

『……ああ。多少慌ただしくはしているが、少しだけなら大丈夫だ』












「何食べてるの?」

場所はヨークシンシティのどこか。きちんとした建物ではなく、もう誰も近寄らない廃墟である。
中心部で買ったパンを口に頬張りながら、シュニは声をかけた人物へ視線を動かした。

「菓子パン。美味しいよ。食べる?」

「もらおうかな」

紙袋の中に入っている菓子パンを差し出せば、男―――シャルナークはそれを受け取る。
パンを手にしたままシュニの隣に腰掛け、口を開いた。

「今フェイタンが競売品の場所を聞いてるところ」

「陰獣、だっけ?あの人で最後?」

「うん」

シャルはシュニの問いに答えると菓子パンを一口囓る。
しばらくそれを噛んだあと飲み込み、シュニの方を向いた。

「…………これあげる」

「…?携帯電話?」

「そ。オレ達との連絡用」

シュニはシャルに差し出された携帯電話をしばらく見つめていたが、何を言うでも無く受け取る。
シャルはシュニが既に携帯電話を持っているかどうかを確かめようとはしなかった。
シュニもまた、シャルに既に携帯電話を持っていることを伝えようとはしなかった。

「あのさ、」

シャルの視線が、シュニとは逆方向へ流れる。
シュニはシャルの方を向いていたが、聞き返すことなく彼の言葉を待った。

「これから、どうするの?」

シャルは、シュニにそう尋ねると同時に俯いてしまった。
その質問をしたくなかったのだろう。しかし、近い未来、その答えはおのずとわかる。
それよりも、シュニ本人の口から答えを聞きたいと、彼は聞きたくない答えを待つ。
今度は、シュニがシャルから目を逸らした。

「……蜘蛛には入らないよ」

シュニは"彼ら"から直接勧誘を受けたわけではないが、作戦に参加させられたことでクロロが自分を試していることは理解していた。
過去ではシュニ自身が彼らを見定めたが、今では彼らが見定める立場である。
そしてシュニは期待に応えた。十分すぎるほどに。

「っ、」

シャルは、シュニの答えをなんとなく予想していたのかもしれない。
だからだろうか。頭の片隅にあった、それでも見ないふりをしていた不安を、口にしてしまう。

「………元からそのつもりだった?」

「え?」

「オレと…オレたちと出会ったときから、一緒に行動するつもりは無かったってこと?」

だからノブナガの制止も振り切り、自分たちの前から姿を消したのかとシャルはシュニへ問うている。
だからといって、その結果と行動を責めているわけではない。
再会を求めていたのは自分たちだけだったのか。邂逅を願ったのは自分だけだったのか。
彼女にとって、この"偶然"は望まなかったことなのか。
シュニの視線がシャルへと戻り、二人の視線がぶつかった。

「それは………違うよ」

シュニは首を振った。

「また会えて良かったって思ってる。本当に」

この世界に飛ばされ、右も左もわからなかったときに得たあの出会いに、シュニの中で手放すという選択肢は無かった。
かといって執着しているわけでもなかったが、家賊とも違う繋がりを感じていないわけではなかったのだ。

「なら…」

「私は子供を殺さない」

どうして、とシャルが答えを求める前に、シュニはシャルの言葉を遮った。

「子供は人間として完成されてない。だから、私は子供のあなたたちを"殺さなかった"」

シャルは―――過去にシュニが殺した大人を振り返る。シュニには思い出す死体が無かった。

「みんなが大人になる前に、あの場を去る必要があった。この世界に来たばかりで何もわからなかった私の居場所を、せめて殺さないようにしようと思って」

シャルがこの話を理解しているのか、シュニにはわからなかった。
それでも、シュニはこう説明することしか出来なかった。そもそも、人に説明するものではないのだ。

「ならよ、今の俺たちなら一緒にいても構わないんじゃないのか?」

「…ノブナガ、」

話を聞いていたらしい。ノブナガは、口元に笑みを浮かべたまま二人へ近づく。
シャルは小さくノブナガの名を零したが、ノブナガはチラリとシャルを見るだけだった。

「今の俺達は"幻影旅団"。御眼鏡に適うと思うが」

焦っている風でも、怒っている訳でもない。
それでも、何故か、ノブナガの声音は穏やかではなかった。
シュニは少し、困ったようにノブナガを見上げる。

「……私がついて行った人。知ってるよね」

「…ネテロだろ。当時は知らなかったが、今じゃ誰もが知ってる」

「あの人にはこの世界のことを教えてもらって、住むところもくれて、私に殺されないでいてくれた・・・・・・・・・・・・・

シュニはネテロの仕事を手伝っているわけではないが、今こうして自分がここにいられるのは彼のおかげであるということを説明した。
だから、この世界に存在したいのなら、自分は彼のところにいるべきだとも。
彼の側から離れれば、この世界に存在することを許してくれないかもしれない。そうなれば、自分は殺されるしかないのだと、シュニは特に怯えることなく淡々と予想される未来を述べた。

「あー」

ノブナガは、自身の後頭部に右手をあて、呆れたように声を伸ばす。
シャルも少し苦笑いをしているように見えたので、シュニはどうしたのかと首を傾げた。

「それは、そうだな……殺されるどうこうっていうより、"恩を感じてる"んだろ、シュニはそいつに」

「"恩"…?」

「そうだ。だから、そいつの側にいようと思ってるんだと思うぜ。"殺されない"行動じゃなくてな」

「ノブナガ…」

「落ち着けよシャル。別にまた会えなくなるってわけじゃねえ。だよな?ただ、シュニが恩人を"殺せる"か―――ああいや、"殺されない"んだっけか、そいつ。シュニが恩人が"殺されるのを黙って見ていられるか"ってなると、俺は無理だと思うぜ」

焦ったように声を出したシャルをなだめるように、ノブナガはゆっくりと話を続けた。
あの夜シュニを引き止められなかったノブナガが、まさかシュニの選んだ答えを肯定するとは思わなかったのだろう。
シャルは昂りかけた感情を無理矢理抑え込み、シュニを見る。

「でも、クロロは入れたがるかも」

「無理には入れないだろ。今は空きも無いしな」



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