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手はず通りに、と言ってクロロを含めた数名はこの場から姿を消し、私は残ったシャルたちと行動を共にしていた。
作戦は簡単。金庫の中にある本日の競売品をすべて盗むというもの。
障害は排除し、邪魔者は消す。ただそれだけである。
付いてくるかとシャルに訊かれたが、私は彼らが逃走手段としている気球で待つと首を横に振った。
心配そうな表情を浮かべたシャルに私が何かを言う前に、マチが人差し指を突き出しながら「大丈夫」だと微笑み、シャルは何か納得したかのように目的地へと歩き出すのを見送った。

「…………………」

そうして、現在。空の上である。

「品物がない?」

「ああ。金庫の中には何一つ入ってなかった」

つい先ほどまでシャルがしていたクロロへの報告の電話。
私への報告も兼ねていたのだろうが、どうやら彼らの作戦通りにはいかなかったらしい。
シャルたちが到着したとき、既に金庫の中は空。
移動先も運び人も不明だったが、彼らには算段があるようで、ノブナガは騒がしい地上を見下ろして笑みを浮かべていた。

「シュニは気球は初めて?」

「うん。でも、今の人数でいっぱいなのに金庫の中身をどうやって…」

シャルの質問にそこまで答え、ふと先ほどのクロロとの電話の内容を思い出す。
運び人が『手ぶらで金庫に入って手ぶらで出て行った』というものだ。更にクロロは、それを聞いて「シズクと同じタイプか」と答えていた。
私は、向かい側に立つ眼鏡をかけた女性に視線を動かす。
彼女もこちらを見ていたようで、その大きな瞳と目が合った。

「そ。私のデメちゃんが中身を全部吸い込む予定だったよ」

―――念能力。
それを隠そうともせず、作戦前に私へシズクと名乗った彼女は右手を挙げる。

「普段からこの気球を?」

「そういうわけでもないけどね」

シャルは苦笑いを零す。
ということは、公共機関を使うこともあるのだろうか。
蜘蛛が。もっといえば、クロロが。

「……………………」

想像が付かなかった。
と、銃声。
いつの間にか、それらが鮮明に聞こえるまで地上に近くなっていたらしい。
勿論、これは手はず通りである。金庫の中身の移動先がわからない今、中身を持っている者をおびき出そうという算段である。

「どうして私まで…」

「ここまで来たら乗りかかった船だろ」

「これは気球ね」

可笑しそうに私の呟きへ反応したノブナガに、フェイタンが珍しく口を開いた。
ノブナガはちがいねえとケラケラ笑っていたが、地上を埋め尽くす黒服の人間たちを見て私はため息を吐きたくなる。

「降りて来いコラァ!!」

「沈められるか埋められるかぐらいは決めさせてやるぞ!!」

地上。
崖の上ではあるが、流石に崖の下で銃を威嚇としてぶっ放している男の声は届く距離だ。

「わーあ。団体さんのお着きだ」

「あれは掃除しなくてもいいんだよね」

「別にいいね」

そんな黒服たちを見下ろしながら、シズクやフェイタンは呑気に会話をしている。

「(あー…)」

クロロが私をこちらのグループに入れた理由がわかった気がした。わかりたくなかったというのが本音だが。

「私が行くよ」

「え!?」

驚きの声を零したのは、やはりともいうべきか、シャルである。
私は半ば諦めたような声音を出したが、ここで"何もしない"という選択をするほど人間が出来ていないわけでもない。
クロロは―――"幻影旅団"の頭である彼は、私の判断を試している。
クロロたちのところにしか居場所がなかった昔とは違う。
今、私は居場所を選ぶことが出来るのだ。正確には選ぶしか無いということだが。

「シュニ」

そう、私の名を呼んだのはノブナガだ。
大丈夫かといった意味を含んでいるであろうそれに、私は背を向けたまま手を振る。

「質問をするだけだよ」

そのまま、履き慣れていない靴で崖を滑り降りた。



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