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「違う…世界?」

反応は様々だった。怪訝な表情を浮かべる者もいれば、よくわからないといった風に首を傾げる者もいる。
シュニはまず、クロロの顔色を伺った。

「………………」

それは、シュニにとって見たことのあるものだった。
"この世界"で唯一シュニの正体を知る人物。"違う世界の人間"という真実を告げられたハンター協会の会長ネテロと、彼は同じ表情を浮かべている。
シュニは、どこから説明したものかと頭を回転させる。まさか、彼らにこのことを言うタイミングがくるなど考えてもいなかった。
ネテロに話したときはたくさんの時間が存在した。だが、今は違うだろう。
フェイタン、フランクリン(あともう1人シュニの知らぬ人物がいたが)の2人がオークションを狙ったのだ。何も"偶然"、あのタイミングでヨークシンシティを通りかかったわけでもあるまい。

「そうか」

納得したかのような言葉を零したのは、やはりクロロだった。

「"世界"というものに意思が存在するのかは知らないが、過去へ遡るくらいだ。それくらいの力が必要なのかもしれないな。それにどうやらその力をシュニが自由に使えるわけでもないらしい。使えるとしたら、ここで俺達と出会うことを避けたはずだ」

シュニが今ここでクロロ達に出会うつもりなど毛頭無かったことは既に見抜かれているらしい。
というよりも、だ。
"世界"という大きすぎる単位について話を掘り下げないクロロに、シュニは首を傾げる。

「……訊かないの?」

「必要ない」

シュニの質問が来ることを予想していたとでもいうような速さでクロロはそう返事をした。

「手短に言う。シュニ。俺達は"幻影旅団"だ。これからヨークシンシティのお宝を全て頂く。その間、ここで大人しく待っていてくれるか?」

クロロの黒い瞳が自分にどんな答えを求めているのか、シュニは汲み取ることが出来ない。
それでも、正直に言うしかないだろうとシュニは静かに口を開いた。

「それは出来ない」

「欲しい物があるのか?」

シュニの反応を見て、クロロはそう問うた。
否、オークション会場にいたシュニが欲しいものがあるのは誰が見ても明らかだろう。そのことでの言葉かもしれない。
しかしそんなことはシュニにとってはどうでも良かった。シュニが欲しいのは物ではない。ミルキには言っていないが。

「欲しい物を手に入れようとしてる人を探してるの」

そう。シュニが欲しているのは物ではない。"それ"をどうしても手に入れようとする人物を知りたかったのだ。
だから、それをクロロたちが横から奪い取ってしまうのは困る、とシュニは心の中で思う。口には出さなかった。

「そうか。なら手を組もう」

こちらが何を言ってもその言葉を用意していたかのように、クロロは口端を上げてそう言った。
シュニは何故か、その手を取っていた。彼らから必死に逃げた自分なら、その手は取らないと思っていたのに。
『本当にそれを欲してる奴なら、俺達に盗まれた物を死に物狂いで取り返しにくるはずだ』――それが作戦だと、クロロは多くを語らなかった。
その口車にまんまと乗せられている自分もどうかと思うが、とシュニは再会を戸惑う暇もない。
それよりも、クロロたちが"世界"に興味を失くしたのが誰が見ても明らかだったことにシュニは顔には出さなかったが驚いている。
シュニは、彼らの反応は様々だと思っていたし、"他の世界"などという非日常なものに彼らなら食いつくと思っていた。
そして、もし彼らが"世界"を超えたいと願うなら、シュニはなんとしてでもそれを止めるつもりでいた。
こうして"世界"を超え、元の世界に帰ることを諦めていたとしても、シュニは元の世界に混沌をもたらしたくはないのだ。
それによって人類最悪が被害を被るとしても―――それ以上に、きっとまだ滅んでいない家賊を守るためである。
だが、そんなものは杞憂に終わった。
結果的にそれはシュニにとっても良かったことなのだが―――シュニはまた、クロロたちとの"生き方"の違いを知る。

「それでは各自持ち場に戻ろうか。シュニはここに残ってノブナガたちと行動してくれ」

「え、」

そう言うが早いが、クロロやパクノダたちの姿は闇へと消えた。
シュニは確かにクロロの口車に乗ったが、それは共に盗みを働くというつもりでは無い。
それに、彼らが"任務中"とはいえ、自分というイレギュラーを突然受け入れる流れも理解が出来ない。
クロロを含めた全員が当然のようにこの現状を受け入れているが―――自分は一度彼らから離れ、そして先程まで逃げていたのだ。
そう。先程まで、シュニは本気で彼らが自分を殺すために追ってきていると思っていた。それくらいに、"幻影旅団"にとって自分という存在は邪魔なはずだと。そして、"そうではない"ことを、未だに受け入れられてはいなかった。

「〜〜ったく、久々に会ったってのになんて顔してんだ。シュニ」

はあ、と溜息をついたのはノブナガである。
あのときは髪もそれほど長くなく、髭なんてものは勿論生えていなかった。
それでも、その仕種と気配、そして声音からシュニはその男がノブナガであることに気付いていた。

「こういうときに言う言葉があるだろ?」

「ははっ、マチに言われるとはな、シュニ」

彼らの中で一番シュニから遠いところで様子を見ていたマチが、数歩前に歩きながらシュニへ声をかける。
シュニは、こうして彼らを見て、あれからかなり年月が経っているのにこの世界での過去を思い出す。

「……また会ったね」

まさかこんな再会になると思っていなかったので、言う言葉は用意していなかったとシュニは苦笑いを零した。



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