05
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ヨークシンシティの近くに、彼らは拠点を移していた。
元より、拠点らしい拠点はない。今この場に集合しているというだけで、すぐにでもここを捨てられるようにはなっている。
幻影旅団。世間では、彼らはそう呼ばれていた。
「電話、鳴ってるぞ」
「え?…本当だ」
どこかぼんやりとしていたシャルナークは、ノブナガに指摘され自身の目の前の机上に置かれていた携帯を開いた。
そんなシャルナークを見るのはこれが初めてではなかったので、何を言うでもなくノブナガはシャルナークが電話に出るのを見ることなく外を眺める。
「フランクリンから…?なんだろう」
「失敗したとか?」
「まさか!フェイタンだけだったら有り得るけど、フランクリンがいるんだよ」
「いいからささっと出な」
予想していなかった着信先に首を傾げるシャルナークへ冗談を呟いたのは暇そうにしていたフィンクス。
そんなフィンクスへ、シャルナークは比較的真面目な顔で反論したが、縫い物をしているマチに針を向けられて肩を竦めた。
既に何コール鳴ったかわからないが、鳴り止む気配のないその電話に、シャルナークは渋々といった様子で出る。
「もしもし?どうし―――『全員今すぐこっちに来い!!!』
珍しいフランクリンの大声に、シャルナークは驚いたように自身の耳から携帯を出来る限り遠ざけた。
電話越しとはいえかなりの大声だったため、静かなここではよく響く。
それでなくとも耳の良い彼らだ。フランクリンのその様子に、何事かと全員がシャルナークに注目した。
「な、なんだよフランクリン。慌てて…」
少し動揺した様子でシャルナークは恐る恐る再び携帯を自分の耳へ近づけた。
『シュニだ!あいつが…地下競売に参加してたんだ!』
「………………は」、?
『今はフェイタンが追いかけてる!いいから今すぐ全員、』
ガシャン、とシャルナークの右手の中から何かが壊れた音がした。
"何か"―――ではない。それは、先ほどまで彼の耳に当てられていた携帯電話だ。
手の平の中で粉々になった"携帯だったもの"はその指の隙間からポロポロと汚れた地面へ落ちていく。
気だるそうに横になっていたウヴォーも、新聞を眺めていたパクノダも、今此処にいるメンバー全員が、そんなシャルナークを見た。
先ほど冗談を言っていたフィンクスも真剣な表情になり、誰もがその纏う雰囲気がガラリと変わる。
「シュニ……?」
シャルナークの口から、誰かの名前が零れた。
そこで初めて、彼らの中に動揺が走る。
「シュニが、」
「団長……」
「どうかしたのか?」
今まで本を読んでいたクロロでさえ、その本を閉じて立ち上がる。
そんなクロロをマチは呼び止めるが、それを制するようにクロロは左手を動かした。
「シュニが…地下競売に参加してたって」
右手には携帯など握られていなかったとでもいうように、シャルナークは虚ろな目でクロロを見上げる。
誰も、何も言わなかった。
長い間誰の口からもその名を聞いてはいなかった。
いつの間にか、自分達の中ではその名は禁句となっていたような気もする。
しかし―――それを、他の誰でも無いシャルナークの口から聞いた。
皆が次々に立ち上がる。
誰も、何も聞かなかった。
それでも、彼らの心は一つである。
理由は違うかもしれない。それでも、行動は同じだった。
「……準備はいいな?」
クロロの問いに、返事は不要だった。