04
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目的地も考えもない。それでも、夜の闇を走っていた。
ミルキに持たされた携帯は鞄ごと別の場所に放り出し、"彼"に撃たせ、既に破壊は終わっている。

「(あの、2人は―――!)」

壇上の2人の姿が、この目に焼き付いて離れない。
見間違えるはずがない。殺意を間違うはずがない。
私は・・――――彼らを知っている・・・・・・・・

「………………」

地下での騒ぎを聞きつけたであろう警察や機動部隊たちの車とすれ違いながら、決して後ろは振り返らない。
3人目の女性を私は知らなかったが、あんな粗末な逃げ方をしたのだ。誰かしら追手はきているだろう。
しかし―――と、余計な思考を巡らせる。
それは地下からの逃走者だからか。それとも、過去での逃亡者だからだろうか。
追われる理由によっては、逃げる理由も変わってくる。
私は殺戮の目撃者として口封じに殺されるわけにはいかないのだ。そして勿論、それに歯向かい悪を討つ正義の味方になるつもりもない。
ミルキに返さなくて良いと言われたものは全て返却が効かなくなってしまった。もしかして、どこかでこうなることを予測していたのかもしれない。
全く本当に面倒見が良い、と笑いをこぼそうとして、ようやく人気がないところまで自分が走ってこれたことを理解する。

「ここは………」

だとしても、立ち止まっている場合ではない。
追いつかれる前に姿を消す必要があった。そんなことはわかっている。
だが―――此処だったのか、と私の足は歩みを止めてしまっていた。
古びた、所々壊れてしまっている建物。
一歩近付く。
そしてもう一歩を踏み出そうとして、そこが範囲内だということを"思い出した"。
ゾクゾクと、背筋に寒気が走る。と同時に、懐かしくもあるそれに喜びも心の内から溢れてくるのがわかった。

「("私"、だ………)」

紛れもない。間違いようがない。
どこの世界に"自分の殺意を感じ取れない殺人鬼"がいようか。

「………………」

廃墟とも呼べる目の前の建物の中にいるそれは、『この世界に来たばかりの"私"』だ。
今日、この時間に、"私"は既に存在した。
この世界に飛ばされたのは―――この数日間の間だったのだ。
ここから"私"は世界を越えた代償を払うため、年月を失うことになる。
それが彼らとの出会いのきっかけではあったが―――それが良かったことなのかは、今のところ私にはわからない。
私は、無意識のうちに自身の両手を見下ろしていた。あの時とは違い、もう消えるようなことはない両手。
その手に――――私は釘バットを握りしめていた。

「!」

振り返る先の殺意は私が気付いたことに気付いたらしい。それでも躊躇わず、それはこちらへ向かってくる。
殺意と同時に振り下ろされる刀。それを手にした獲物で簡単に受け止め、同時に弾く。
あの頃よりも随分と重い攻撃だったが、こちらもこの世界でただ生きてきたわけではない。手加減をしたのかわからないが、今の攻撃ならノヴの方が余程強そうだ―――と考えたところで。

「………………」

目の前の殺意が、これでもかと言うくらいに膨れ上がった。

「ちょ…ちょっ、」と!

突然の事に驚き、空気の読まない声が出てしまう。
なんだ―――それは。
殺意は私を殺す気でいた。再会を喜ぶでも嘆くでもなく、殺意はかつてない怒りに包まれている。
そう―――再会。
目の前の"殺意"。地下競売からここまで息を切らすことなく追ってきた"犯罪者"。

フェイタン・・・・・…!」

「…へえ、ワタシの名前を知ているか」

「っ、」

その隠れた口元には確実に笑みが浮かんでいる。
どうやら私を忘れているわけではないらしい。
それでいて―――いや、それだからこそ殺意を抑えようとしていないのか。
振り回される刀は的確に急所を狙ってくる。釘バットで対抗しているが、先程のはやはり手加減していたようで反撃の隙が見えない。
右からくる斬撃を釘で受け止めたところで、次の瞬間には反対側からその刃が私の首を狙いにくる。
可能性は考えていた。むしろ、それとは違う甘い可能性をどこかで期待していた自分に笑いが零れそうになった。
地下競売を襲い、目撃者を全員消す。それ程までに大それたことをする彼らが、自分達を知っている者を生かしておく理由はない。
私が彼らを殺さないのなら、彼らは私を殺すべきなのだ。



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