03
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【何もかもが値上がりする地下室
そこがあなたの寝床となってしまう
上がっていない階段を降りてはいけない
他人と数字を競ってもいけない】

「すげェ面子だな、ほとんど組の幹部以上。親分は自ら来てるトコもあるぜ」

「意外だわ」

「何がだ?」

「たかが競売でしょ?別に代理を頼めばいいじゃない」

「ここは面子争いの場でもあるのさ。高く落札すればその価格の5%が手数料としてコミュニティーに支払われる。まぁ、言わば上納金になるわけだな。自分達の経済力を示せると共に、全国のマフィアに名を売り、株を上げる絶好のチャンスっていうことさ。そのせいで散々競ったあげく高額で落札しちまって、破産した組があるって話も聞くほどだ」

そんな会話を、シュニは軽く聞きながら案内された会場へと入る。
すぐに目立たない隅のほうに共に行動している男たちと向かい、興奮が隠しきれない客たちを観察していた。
色々と彼らの会話を聞いていたものの、特に自分が欲しい情報を口にしているわけではない。
ミルキを信じていないわけではないが、空振りだとしたらどうしようか、とシュニは既に溜息を吐きたい気分だった。

「…………………?」

シュニは、自分でも気付かないうちにあたりを警戒していた。
何か―――何だろう。言葉で言い表せない"何か"を感じ、スッ、と体温が下がる。
ざわざわとした会場が、一気に自分の世界と隔離された。
会場のライトが落とされる。
右のほうにいる少し背の高い男?正面にいる皺だらけのスーツを着た女?今扉を閉めた会場の人間?
ライトアップされた舞台に、カツカツと足音を慣らながら2人の人間が現れる。
違う。どれも違う。会場の人間が原因ではない。それに、原因や要因はどうでもいい。自分が今すべきことは、"今すぐこの場から立ち去る"こと。

「皆様、ようこそお集まりいただきました」

「っ――――!?」

シュニは、反射的に顔を上げる。
息が――――止まった。

「それでは、堅苦しい挨拶はぬきにして」

どうして。なんで。
思考と反応が鈍る。
『この場から立ち去る』という答えを導き出したというのに、既にシュニの頭の中は真っ白だった。
ここで―――このタイミングで、こんな場所で。
舞台に立つ2人から、視線が逸らせない。
このすぐあとに起こる惨劇など簡単に想像ができた。
それでも自分にこの悲劇を避ける方法などなかった。

「くたばるといいね」

刹那。
壇上で一言も喋らず静かに立って居た男の両手が持ち上がった。

「"俺の両手は機関銃ダブルマシンガン"!!」

放たれるは、無数の弾。
念能力だ―――そう気付いた頃には、会場の役半数が死んでいた。
しかし、流石にそう全員が全員"何も気付かず"死んでいくわけがない。
念能力でそれを防ごうとする者。咄嗟に危機を察知し、外へ危険を知らせようと背を向けて走り出す者。
だとしても、精密もなにもあったものではない弾は、"数撃ちゃ当たる"の言葉の元、そんな彼らに"防御も速度も関係なく数と力の暴力で"死という現実を撃ちこんでいく。

「あっけねェあっけねェ」

「ワタシの出番全然なかたね」

先ほどまで会場にいたたくさんの人間達は、既にその原型を留めていなかった。

「あれ。まだ生き残りが」

ただ―――1人を除いて。

「あ……………」

血まみれの会場。
殺された彼らの悲鳴が未だ空間に残っているようなそこで、その"生き残り"だけは異様に綺麗であった。
それが、彼女の存在を一際異様に目立たせている。
彼女―――狩襖シュニの存在を。

「…?どうしたの2人とも。あれ、私がやっちゃっていいの?」

眼鏡をかけた女が、全く動こうとしないスーツを着た2人へ不思議そうに声をかける。
問いかけながらもシュニへ近付く女だが、それよりも先にシュニが動いた。

「あっ、逃げた。デメちゃん!」

「やめろシズク!!!」

「え?」

地面に散らばる"破片"も気にせず、シュニは外へ逃げようとした誰かが開けた扉から勢いよく飛び出す。
それを逃がす彼らではない。しかし―――シュニを追おうとしたシズクを、大柄な男は反射的に呼び止めた。
不思議そうに振り返るシズクの横を、風が通りすぎる。

「あ、フェイタン!…もう、横取りは酷いなあ」

何も言わないまま、フェイタンと呼ばれた人物も、シュニの後を追うようにその場から姿を消した。
そんな2人の背中を見送ったシズクは、不満そうに再び大柄な男に向き合う。
しかし男は深刻そうな顔で携帯電話を耳に当てていたため、シズクはただただ首を傾げることしかできなかった。



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