08
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ミルキの忠告は気にしたものの、よく考えればこれだけ執事のいる家で"奥様"自らが料理を手がけるはずもない(あったとしても部外者である自分にはまず振舞わないだろう)、とシュニは与えられた部屋へ運ばれてきた夕食を口にしていた。
フルコースまでとはいかないが、普段目にしないような高そうであり種類の豊富な料理の数々に少しばかり驚いたものの、特に遠慮をすることはなかった。

「(いや、何普通に泊まってるの私…)」

デザートに手を付け始めながら、シュニはぼんやりと棚に置かれた時計を見つめる。
しかし考えたところで全てゼノが原因であるという答え以外に心当たりは無いし、時間が潰せるわけではない。
行き当たりばったりといわれればそうかもしれないが、流石にこんなことになるとは思っていなかったので時間を潰せる何かを持って来ておらず、それに持っていたとしても限度があるだろう。
『この屋敷内なら自由に出歩いても良い』と言われたが―――シュニはツボネのことを思い出し、そんな気分にはなれないと首を横に振った。
それに、もしこの部屋の扉に何か目立つ目印を残したところで、再び1人でこの部屋に戻ってこれるのかシュニには自信がなかった。
それらを分かっていて許可を出したのか、知る術は無い。

「……………………」

ミルキには、既に"何について"調べて欲しいのかを伝えてある。
あんな感じではあるが、金銭のやり取りが発生する仕事だ。情報の秘匿等は任せられるだろう。
そういった意味でも―――シュニは、"ゾルディック家"に頼るしかなかったのだ。
調査に特化している人物を知らないわけではない。痕跡も証拠も残さずそういったことを出来る人物は片手で数えられるくらいには候補に挙がる。
だとしても、"彼ら"に自分の"調べるもの自体"を知られるのは好ましくなかった。
何故、どうして、なんのために――――このポケットに入っている携帯の元の持ち主に関係のある彼らならば、そこまで調べるはずだ。
しかしミルキには――"ゾルディック家"にはそれがない。
金を受け取り、言われただけの仕事をする。殺し屋であり暗殺一家である彼ら。

「『相手が誰であっても頼まれれば殺す』」

シュニはフォークを皿の上に置き、シャワーを浴びるために立ち上がった。
そんな暗殺一家に"客用の部屋"などというものがあるとは思わなかった、とホテルのように新品の洗面用具があるのを見ながら思う。

「……………………」

タオルはふわふわ、シャワー室も何から何まで揃っていた。
一体今自分はどこにいるのかがわからなくなった頃、シュニはそろそろ寝ようとリビングに戻って。

「こういうときは、そうだな。『こんばんは』か」

見覚えのある白髪の男の顔を見て、眠気が一気に吹き飛んだ。

「…………こんばんは」

油断していたわけではないが、シュニはその男―――シルバの存在に少しばかり驚いていた。
それと突然人の部屋(といっても借りているだけで確かにゾルディック家のものではあるが)にいるという事実に、シュニは不満たっぷりに挨拶を返す。
そんなシュニの心情に気付いたのだろう。シルバは苦笑いを浮かべながら扉を指差し、「一応ノックはしたんだがな」と肩を竦めた。

「子持ちが夜分に女の部屋に用ですか?」

「はは。そういう冗談も言えるのか。知らなかった」

何が面白いのかわからなかったが、シルバの機嫌を損ねるにはいまいち足りなかったらしい。
シュニはいつの間にかテーブルの上に置かれている2つのティーカップを見下ろしながら、シルバの向かい側のソファに腰をおろした。

「ハンター試験、受けたんだろう?」

「…………………」

まあシルバも知っていておかしくないか、とあの掴みどころのない老人のしたり顔を思い出して顔をしかめる。

「まあそんな顔をするな。少し訊きたいだけだ」

「…訊きたい?」

一体何を、とシュニはカップに注がれている綺麗な色の紅茶から視線を目の前のシルバへ移した。

「キルアについてだ」

「キルア…」

確か彼も白髪だったな、と目の前のシルバの髪を見つめる。
イルミもミルキも黒髪だ。言われてみればシルバとゼノのことがあったが、キルアがイルミを『兄』と言うまで、彼がゾルディック家の人間であるなど本当に全く気が付かなかったのだ。
そんな自分が彼について何か言えることはないと、シュニはシルバの質問を待つ。

「お前から見てあいつはどうだった?」

「どう……って?」

「ハンターとして。そして、"暗殺一家"として」

「なんでそんな質問を私に」

「他に訊ける奴がいないからだ」

確かにイルミに訊いたところで答えは決まっていそうだし、まさかヒソカがゾルディック家自体と知り合いだとも思えない。
シュニは静かに口を開く。

「……私は、ハンター試験でキルアとは関わってない」

ハンターとしての彼については"ハンター"をわかっていない自分に答えられることはない。
しかしもう一方のほうならば―――これだけで十分だろう、とシュニは紅茶を見下ろす。

「…………そうか。いずれそうなるとしても、確かにアイツは"まだまだ"だ。俺がアイツくらいのときなんて、」

「待って。その話、もしかして長くなる?」

「ん?いや。そんなことはないさ」

シュニは何故かハンゾーの顔を思い出していた。



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