07
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「依頼人をお連れしましたよ」

「ん、ありが…うぉっ」

「では私はこれで」

案内された部屋の前で、扉を開けっ放しにしたままツボネは一礼すると瞬時に姿を消した。
シュニは気配を探ってみたものの、ツボネは既に遠くへ行ったようだった。
部屋の主であるミルキとはいうと、振り返って何か驚いたように手にしていたスナック菓子を床に落としそうになっていて、慌ててそれをキャッチしていた。

「……?話、聞いたんじゃないの?」

何をそんなに驚いているのだと、シュニはそんなミルキを不思議そうに見る。
ミルキは「そうだけど」と体勢を取り直し、もう立ち去ったツボネが立って居た場所を見ながら首を傾げた。

「何でツボネが案内してるんだ…?」

「?」

「まあとりあえず座りなよ」

人手不足なのか?などと呟きながら、ミルキはデスクに備え付けられた椅子に座ったまま似たような椅子をシュニへ差し出す。

「じゃ、仕事の話だけど」

ミルキは話を瞬時に切り替えたものの、スナック菓子を食べる手を止めるつもりはないようだ。
シュニも特に気にしていないので、ミルキは口の中のものを瞬時に飲み込む。
しかしまさかこんな状況で話すことになるとは、といつしか見たことのある人形が違う服を見にまとっているのを観察しながらミルキの言葉を待った。

「まず、あんたには前金を払ってもらう。勿論料金の全部じゃない。万が一『調べられない』ってこともあるからな。だけど『調べる』ってだけでリスクは伴うもんだ。ま、その作業の料金みたいなもんだ」

「いくら払えばいいの?」

「まあそう焦るな。それは"モノ"による。あー、まだ言わなくていいぞ。"人"か"物"か。"現象"か"歴史"か。最初はそういう大雑把なもんでいい」

「…………………」

シュニは口を開きかけ、閉じる。
こういったことは初めてなので、タイミングを計れないでいるのだ。
恐らくミルキもそれを悟ったのだろう。食べ終わったスナック菓子の袋を近くのゴミ箱へ捨て、少し考えるような仕種を見せたあと口を開いた。

「オーケー。俺が悪かった。あんたは何を『調べてほしい』んだ?」

こう訊けばわかりやすいだろう、とミルキはシュニに救いの手を差し伸べたらしい。

「"物"と"人"」

シュニは勿論その手を取り、欲しい情報を口にする。
ミルキはシュニの言葉に特に驚くことはなく、自身のそのたるんだアゴへ手を伸ばした。

「2つか…。じいちゃんにはサービスしとけって言われたし、イル兄の知り合いみたいだからぼったくったりはしないけど、安くはないぞ?」

「いいよ」

というかいつもはぼったくっているのか、とこのときばかりはシュニは自分の人脈に感謝する。
シュニが頷くと、ミルキはポケットから携帯のようなものを取り出すと(恐らく携帯ツールか何かなのだろうかシュニが見たことのない形だった)何かを打ち込み始める。
10秒程でそれは終わり、ミルキはその機械の画面をシュニへ向けた。

「これ以上は下げらんないからな」

そこには、色々計算して出たであろう"仕事"の料金が表示されていた。
あのゾルディック家の1人に頼むのだ。確かに前金としては安くない額である。
しかし元から食費以外に特にお金を浪費しないシュニにとっては、その金額でも首を縦に振れた。
元よりそのために来たのだ。ノーと言う意味はない。
シュニの肯定を受け取り、ミルキは再び画面を自分に向けてその機械をいじりはじめた。

「今から口座の番号を教えるから、とりあえずここに―――」

「はい」

ぽん、とシュニがミルキに"何か"を差し出す。
ミルキは反射的に機械の画面から目を離し、シュニの手元を見て、目を見開き言葉を失う。
そして、ほんの一瞬の硬直のあと慌てて立ち上がった。
そんな体型でそんなに素早く動けるのかなどと失礼なことを思いながら、シュニは何事だろうとミルキを見上げる。

「お前!なぁ!!ま、まさかその金、持ち歩いてんのか!?」

「え、うん」

そうだけど、と当たり前かのように答えるシュニに、ミルキは額に手を当てて倒れるように椅子へ座った。

「お前…このご時勢に、普通そんな額手持ちしないぞ?」

「確かに重いけど」

「そうじゃない!……はぁ、オススメのとこ教えてやるからそこに口座作ってぶち込んどけ。残りの金はそこから受け取る」

「まだあるよ」

「ふざけんな!」

更に鞄から金を出そうとするシュニに、ミルキはもう一度立ち上がりそうな勢いで怒鳴る。
お金はあるのに何をそんなに怒っているのだとシュニは首を傾げるが、今ので一気に疲れた様子のミルキは盛大に溜息をついた。

「…とりあえずこの金は受け取るけど、仕事に取り掛かるのは明日からな。今は"躾"で忙しい」

「…………?」

ミケのことだろうかと考え、思い出したくもない気配にシュニは首を振る。

「しばらくいるんだろ?1つ忠告しておくと、母さんの料理は毒が入ってるときがあるから気をつけろよ」

「…………………」

なんていう一家だと、ミルキの頬張るスナック菓子を貰おうか一瞬悩むシュニだった。



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