06
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とりあえず中には入れたが、とシュニは相変わらず天井の高い室内を見渡す。
前回案内してもらった部屋があるとはいえ、そこまでの道は覚えていない。
恐らく"そういう造り"なのだろう。
なので案内役が出てくるとシュニは考えていたが、少し待っても誰も来ないのを見るとそうでもないらしい。

「(……しょうがないか)」

適当に歩いてみよう、ともしかしたら罠のある部屋もあるかもしれないだなんて笑えない冗談を考えながらシュニは歩き出した。

「……………………」

誰とも会わない。何もいない。
まさかあれだけ執事がいるというのに世話役がいないはずもないだろう。
階段を上ったところで景色が変わるはずもなく。

「……………?」

しかし、ふと誰かの気配がしたような気がしてシュニは立ち止まる。
気のせいではない。
誰かが、この先の部屋の中に入る。
どうするか、とおそらく"誰か"がいるであろう部屋に繋がる扉を見た。
まさか自分の存在に気付かないゼノやシルバではないだろう。
だとすると目当てのミルキだろうか。
じっとしていても仕方が無い。そうであってくれと願いながら、シュニはドアノブへ手をかけようとする。

「そこではありませんよ」

と、声。
シュニは手を止めたが、驚いたように後ろを振り返る、だなんてことはなかった。
その高くはない女性の声を、シュニは聞いたことがなかった。
後ろを振り返る。
客向けの笑みを浮かべた女性が、そこに立っていた。
敬語のところとその身を包んでいる制服から、どうやら彼女も執事らしいとシュニは観察する。
しかしゴトーを先に知ったからか余計に―――"執事"というには"あまりにも"。

「ミルキ様がお待ちですよ」

2つ、しかも三つ編みに結われた長髪。その右目にはランクルを装備している。
だがなによりも目に付くのは、その大きな体格とガタイの良さである。
『案内役』としてはどうも"それらしくなさすぎる"彼女に、シュニは口を閉ざした。
見た感じではゼノと同い年くらいだろうか。彼の年齢をシュニは知らなかったが、明らかにシルバよりは年上だ。
そんな"執事"はシュニが喋らないのを"警戒"と捉えたようで、軽く頭を下げる。

「ツボネと申します。ゼノ様からお話は伺っています」

自分よりも遥かに年上の彼女に恭しくされるのは違和感があったが、それが彼女の仕事なのだとシュニはじっとツボネを見た。
ゴトーと違ってその顔には笑みが携えられていたが、何を考えているのかは彼よりも判り辛い。
シュニはしばし沈黙を貫いていたが、何か思考が終わったようで、ゆっくりと口を開いた。

「……どこかで会ったこと、なかった?」

「…………………」

そうは言うが、シュニ自身、ツボネと出会った記憶などない。
しかし―――"何か"が引っかかる。
話し方か。見た目か。雰囲気か。

「(違う………)」

殺人鬼と呼ばれるシュニが、それに気付くのにあまり時間は有さなかった。
知っているのは―――彼女の殺気だ。

「今日は、お連れの方はいらっしゃらないので?」

「……彼とは随分前にわかれたよ」

シュニを、"彼"が『箱入り娘』と勘違いした原因。
シュニを監視していた存在そのもの。

「……………………」

ツボネは勿論、シュニを監視している間中、その気配を完全に消していた。
敵意も殺意もひた隠し、"そこにいない"かのように振舞うのはゾルディック家の執事として至極当然。
ただ―――長年浴びてきた、そして培われてきた殺気を、零崎であるシュニが感じ取れないはずもない。
ツボネはそこで初めてシュニに脅威を感じた。ただ、致命的なものではない。ほんの少し――微かに頭の片隅で、感じただけだ。

「ゼノに言われて?でも、どうして?」

「いえ。私はシルバ様のところの執事で御座います」

「…?でも、」

そのときはまだシルバと知り合いではない、と言おうとして、ツボネにそれ以上喋る気がないことを悟る。
疑問は残るが仕方ないと、シュニは本来の目的のためにようやく扉の目から離れた。

「(………それに、)

"こう"してシルバ以外の命令を受けているのだ。シルバ以外の指示だった可能性もある。
それとも、命令ではなくこの扉の向こうにいる"何か"が原因か。
しかしなによりもう過ぎ去ったことにシュニはそこまで時間を割こうとは思わなかった。

「ミルキはなんて?」

「私は一介の執事。仕事に関しては一切お聞きしておりませんので」

「はぁ」

自分で聞けということか、とシュニはツボネの後ろをついていく。
シュニの2倍かそれ以上ありそうな体型ではあったが、歩くスピード、または歩幅を調整してシュニのペースにあわせてくれているようだ。
そこは執事らしい気配りだったが、流石ゾルディック家、"普通"の範囲をこうも簡単に越えてくるとは、とシュニは妙なところで感心していた。



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