04
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「…………………」

ゴトーは席を外したものの、シュニが座っているソファと向かい側の椅子を取り囲むようにして先程扉の前に立って居た執事達が立っている。
その妙な緊張感を感じ取ってはいたものの、シュニは特に居心地が悪いという風ではなく、目の前に出されたお菓子を頬張っていた。
ゾルディック家で出された食べ物の件を忘れているわけではないが、シュニに警戒の色は無い。
執事たちは目を見合わせ、シュニを不思議そうに、それでいて警戒対象とでもいうように観察していた。

「……………………」

ただ、居心地が悪くないと言っても先程までゴトーの殺気にあてられていたシュニだ。
せっかく奥にしまった殺意が、溢れ出てきそうになる。
そして、お菓子を食べる手が止まり。

「っ、」

誰かが、息をのんだような気がした。

「相変わらずだな」

聞き覚えのある声。
シュニは、未だソファに座っていた。

「!ゼノ様」

「下がってていいぞ。彼女とは自分が話す」

他の執事達が驚いたように彼の訪問に頭を下げる。
ゼノ=ゾルディック。
シュニが知るゾルディック家の中で、一番の年上だ。というか、イルミの祖父だろう。

「久しぶりだな」

「どうも」

シュニは向かいに座ったゼノに軽く頭を下げると、目の前の紅茶に口をつけた。

「ゴトーから話は聞いた。なんでも仕事を頼みたいそうだな」

「…でも、なんであなたが?」

年長の者がわざわざ出向いてくるなんて、とシュニは予想していなかった人物の登場に少しだけ動揺している。
それほどまでに警戒しているのか、ただ単に暇だったのか。
服に書かれた『一日一殺』という文字を見ながらシュニは紅茶の入ったカップをゆっくり元の場所に戻す。

「嬢ちゃんが頼むくらいの仕事だからな。ワシ以外に適任がいるとは思えん」

「え」

「それとも、イルミが良かったか?」

「いや……」

シュニは言葉を濁す。
意気揚々と仕事の話に取り掛かろうとするゼノに、なんて言葉を返せばいいのか。
シュニが頼みたいことは誰かを殺すことでもそれを手伝ってもらうことでもない。
ただ単に、"調べ物"をしてほしいだけだ。
故に―――適任は目の前の彼ではない。

「暗殺関連の仕事じゃなくてですね、」

あー、とシュニの目が泳ぐ。
ゼノはというと少し驚いたような顔を浮かべていたが、すぐに「ふむ」と何かを考えこむような動作をし始めた。

「確かに嬢ちゃんがそういったことを誰かに"頼む"ようには見えないしな…早とちりだったというわけか」

「はあ、なんか、すみません」

「いや。気にするな。まあもし頼みたくなったらいつでも来て良いぞ。特別に割引してやる」

「割引…………」

暗殺に割引サービスとかあるのか、とシュニは少しそのシステムに苦笑いを零しそうになる。
渡された名刺を受け取り、無くさないようポケットに入れた。

「しっかし、そうするとなんだ?暗殺一家にそれ以外の仕事など…」

「調べ物を頼みたくて」

今この場に執事たちはいない。
主人たちに訊かれれば答えてしまうであろう彼らに聞かれていないのなら、とシュニはその仕事内容を口にした。
ゼノは腕を組みながら、なるほど、と首を縦に振る。

「調べ物、ということはミルキに用があるのか」

「うん。受けてもらえるかはわからないけど」

「しかし嬢ちゃんはハンターだろう?自分でめくることも出来るんじゃないか?」

「めくる?」

じゃなくて。

「なんで私がハンターだって…」

「前に来たときイルミと話してたのをちょっと耳に挟んでな。どうせ合格したんだろう?」

「(このじじい……)」

盗み聞きしてたのか、とシュニは少し口の悪くなった心の中で悪態をつく。

「まあ調べ物が得意でないというならあいつに頼めば良いだろうが、ハンターライセンスがないと結構な制限がかかってな」

欲しい情報の機密性にもよるが、と言われ、シュニは唸る。
確かに調べ物は得意ではない。
シュニは一応自分でその情報を調べてはみたものの、大した情報は見つからなかった。
なのでその手のプロに頼もうと思っていたが、ゼノの言う通りなのだとしたら恐らくミルキはハンターライセンスを持っていないのだろう。
あのイルミでさえつい先日手に入れたばかりなのだ。まあ持っていなくてもおかしくはない。
だとしても、自分のライセンスを貸すほどシュニに管理能力が無いわけではなかった。

「それとも、調べ物が終わるまで屋敷に泊まるか?」

「え」

ゼノの驚きの提案に、シュニの思考回路が一瞬止まる。

「イルミもそれまでには帰ってくるだろうしな」

「あの、私は別にイルミに会いたいわけじゃ」

「ん?そうか?お似合いだと思うが」

「お似合い…?」

一体何に。

「仕事とはいえライセンスを他人に貸すのはあまりオススメしない。必要になったとき自分で使えばいい。部屋なら用意させよう」

もうすっかりその気で居るゼノに、シュニは何も言うことが出来なかった。



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