07
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予想通り、というよりイルミ以外の誰もが予見していたであろうゴンの行動に、特になにを思うこともなかったのでシュニは黙って見ているだけだった。
予想外であったのはイルミが抵抗らしい抵抗をしなかったこと。
確かに彼は先ほどの試験で『ウソだよ』と冗談らしく言い切っていたが、本当にここにいる全員を殺したとしてもおかしくはない。
しかしそんなことをする必要とすらないと判断したのかもしれなかった。ただし、その代償は安くない。

「イルミ、その腕」

「これか。うん、折れてるよ」

先程ゴンはあろうことか自分の倍近くある背丈のイルミを自由の効く右腕で放り(イルミは見事着地したわけだが)、その際に力に任せたのかイルミの腕の骨を折っていた。
だがそれを見抜いたヒソカの言葉に、イルミはなんでもないかのように頷く。

「折れてるって…この後仕事なんじゃないの?」

「……?そうだけど?」

関係ある?とでも続きそうなイルミの反応に、2人の会話を聞いていたシュニはその言葉に含んだ意味を飲み込んだ。
しかし、イルミのななめ前でクスクス笑いを零すヒソカがそれを良しとはしない。

「なに。どうかしたの」

イルミはそんなヒソカに純粋(なんて彼らに似合わない言葉だろう)に疑問をもっていて、不機嫌そうに視線をシュニからヒソカへとうつす。

「いや。うーん。イルミ、彼女はキミのことを心配してるんだよ」

「は?」

イルミと出会ってから何度か聞いた、その短い返答。
ヒソカはヒソカで何がそれほど可笑しいのか、今にも腹を抱えて笑いそうである。
そしてシュニは確かにヒソカの言う通りではあったので、特に何も口を出そうとしなかった。
ゆっくりと動く視線が、いつものようにシュニを見下ろす。

「ふぅん…でも、オレの心配なんかより自分の心配をした方が良いんじゃない?」

「え?」

イルミの言葉に、シュニは首を傾げる。
なんのことだろう。

「それより、イルミはこれから仕事だとして、キミはこれからどうするんだい?」

どうやら笑いが収まったらしいヒソカがシュニに訊く。
シュニはそんなことを訊かれるとは思っていなかったので、少し言葉に詰まった。

「………ちょっと調べ物をしようかと思ってるよ」

シュニは思いっきり言葉を濁した。元から隠し事は得意ではない。そして勿論、それに気付かないヒソカでもない。
だが、ヒソカはそれ以上深く突っ込もうとはしなかった。

「…残念◆デートにでも誘おうかと思ってたんだけど」

「丁重にお断りします……」

冗談であることはわかっていたが、シュニは苦笑いを零しながら首を横に振る。
そのまま2人にわかれを告げ、シュニは会場を後にした。

「………そういや、ゴンだっけ」

イルミは自分の折れている方の腕をぶらぶらさせながらヒソカに問いかける。
ヒソカはシュニに向けた笑みと変わらないそれを向けながら、短く返事を返した。

「ヒソカが見守りたいって気持ちが、よくわかるよ」

「だろ?」

「(それだけオレからみたら危険人物なんだよな。できれば今のうちに…)」

ふと、イルミは視線を感じてそちらを向く。
ヒソカの表情から、一切の感情が消えていた。

「ゴンはボクの獲物だ。手出ししたらただじゃおかないよ」

「わかってるよ。短いつきあいだがヒソカの好みは把握した」

しかしその冷たい目にイルミが怯むわけもなく。
肩を竦めて、面倒事はごめんだとでもいうように話題を変えようとした。
が、それよりも先にヒソカが口を開く。

「ボクも、イルミが彼女を気にかける理由がわかったよ」

「……オレ、気にかけてるなんて言った覚えないけど」

「クク…まあそんな怒らないでよ◆別にとってくおうなんて考えてないからさ」

怒ってもいないという言葉をヒソカは聞いているのかいないのか、再びその顔に笑みを取り戻していた。

「………………………」

「あ」

そんなヒソカの反応が不満だったのか、何も言わずイルミはその場から姿を消す。
ヒソカは何かを言おうと口を開いたが、シュニが去っていった方向を振り返ってその言葉を飲み込んだ。

試験終了無事合格


(これは、物語の始まる話)




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